貸切バス監査はある日突然やってきた
弊社、行政書士法人シフトアップへある日このような電話が入りました。
電話の主は、以前に貸切バス事業の名古屋営業所新設のお手伝いをした㈱M様の運行管理者さんでした。営業所新設の認可は2月に下りて、巡回指導も終わり、顧問は不要とのことで、そのまま音沙汰なしの状態のお客様です。
こちらから、電話しても、社長はつながらずだったので、私も連絡をしないまま何か月か経っていました。
心配はしていましたが、こんなに早く監査が来るとは・・・。
バス事業は本当に一般貨物の運送事業より取締が厳しいと思いながら、これまでの運営状況を確認させていただくと思いもよらない事態になっていました。
役員の交代やら何やらで、運行管理がほとんどできていない。これは本当にまずい状況です。
さらに詳しくお聴きすると、監査官が来た時は、運行管理者さんは本社の安全会議に行っていたらしく、日報と点呼簿の写真を数枚撮って「一週間後に、もう一度監査に来ます。その時は、運行管理者と名古屋営業所の所長さんは必ず立ち会ってもらいます」と事務員さんに告げて帰ったそうです。
「先生、帳票の管理できてないんです、助けてください」と本社の統轄部長じきじきにお電話を頂きました。
頼りにして頂き電話をくださるのはありがたいものです。感謝、感謝。
こういう時の運送事業者さんの気持ちは皆さん一緒です。「もっとしっかり管理しておけば良かった。営業停止になったらどうしよう・・・」
そうですね、売上ダウンに直結しますから死活問題です。事業者さんであれば、心配になって当然です。
監査の知らせが来たらやることは状況確認
あれこれ考えるよりも、まずは状況確認させてくださいと告げ、翌日急いで事務所に伺いました。
運転者台帳、車両管理台帳等はしっかり管理されていたのでホッとしましたが、点呼簿、日報、引受書が記載漏れ、歯抜け、運行管理者の印鑑漏れ、バスがエンジントラブルで故障して1ヶ月近く運行できていない、などの不備があったのでまずは重要なところから不備訂正していくようにお願いしました。
「なんとか頑張ります」と所長さんがおっしゃってくれたので、監査当日立会いのお約束をし、私はその日は帰ることに。
監査当日まであと5日。その間にしっかり不備訂正しておかないといけません。なぜなら、㈱M様は、東京に続いて、九州地方にも営業所新設の申請をしています。
日車や営業停止になれば、欠格事由に該当し、申請は取下げ、営業所立ち上げが予定通りできない可能性があります。
監査がやってくる|長い一日のはじまり
監査当日の朝、監査官3人が険しい表情で10時きっかりに事務所に訪れました。まず、今日の訪問の趣旨を伝え、事業者に意向確認をしてから監査が始まります。
事務所内はなんとも言えない重たい空気が流れます。これは所長さんも緊張するだろうな、そんなことを思いながら私は所長さんの傍らで待機します。
監査官3人は点呼簿チェック、日報チェック、配車表や指示書等のチェックと手際良く各々仕事を分担します。帳票類は膨大な量ですから当然ですが、重箱の隅をつつく巡回監査で、三人では裁ききれない帳票の量です。
監査基準となるチェック表を出して監査していくのですが、このチェック項目が細かい!これは監査官も力入れて取り掛かるはずですね。
時折、三人はひそひそ話をし、首をかしげながら進めていきます。腑に落ちない所があると㈱Mの所長さんに、何度も質問をして回答を求めます。
特に首をかしげられるとイヤな気分になります。質問をしてくれればまだいいのですが。首をかしげてそのままスルーされるほどイヤな事はありません。
嘘はつけません
適当なことを言ったり、ツジツマの合わないような事を言うとすぐ監査官に突っ込まれます。ですから、嘘はつけません。
巡回監査前に所長さんと打ち合わせした時に、「嘘をついてもわかるから質問されたら正直に話してください」と伝えておいたので、所長さんは正直に答えてらっしゃいました。その方が、所長さんも変な緊張をせずに済みます。
よく、「何とかごまかせませんかね」とおっしゃられる方がいます。一つ嘘をつけば、その嘘を隠すためにまた嘘をつき、また嘘をつきと、泥沼にはまります。
ですので、お客様には監査官からの質問には正直に答えるように私は毎回伝えます。
結果として、その方が事が良い方向に進むものです。監査官も人ですから、「嘘をついてる」とわかれば、しっかり管理している部分でさえ、疑いながら監査を進めるので、質問の応酬にあってしまいます。
重たい空気の流れる事務所
重たい空気の流れたまま、12時になったので、「午後も監査を続けさせていただきます」と告げ、監査官たちは昼食に出かけました。
同じく私たちも食事をとることに。
所長さんは、「川合先生、めちゃめちゃ細かい事聞いてきますね。嫌な汗出ましたわ。これ今日中に終わるんですかね?」と少し疲れた様子です。
13時を10分ほど過ぎて、監査官たちは戻って来ました。馴れ合いになっていけないというのは解るけど、世間話のひとつ位してもいいんじゃない?監査官さん。
と思わずつっこみたくなる雰囲気で、また監査が始まります。
運行指示書の抜けがあったり、車両の故障で、現地で車両を入れ替えたりが何回かあったので、そこは執拗に突っ込んできます。
「途中で他のツアー団体乗車させてませんか?」
「故障した車両はどこの整備工場に持っていったの?」
「運転手はその後名古屋まで帰ってきたの?」
ここまで聴かれると、まあ嘘をついていたら、ボロがでますよね。ですから、正直に答えるのが一番です。
そして、16時を過ぎたころ、ようやく監査官3人各々がチェックした帳票類を突合せ、全体として矛盾がないかを調べます。
「三人で処理方針について打ち合わせをしますで、外で待っててもらえますか」
言われるままに外で待つこと15分。「終わりました、どうぞ入ってください」
って、そこは㈱Mさんの事務所だよと思いつつ事務所に入ります。
「今回の監査の結果を今から発表します。㈱Mさんは概ね運行の管理がされています。本来は違反だが容易に改善できる部分については口頭指導とします。その箇所は・・・・・」
「明確な違反が2つありました。それは・・・」
今回、㈱Mの所長さんが驚いていたのは
「エンジントラブルで車両が故障して運行中断した時は罰則はないものの、事故として運輸局に報告の義務がある」ことです。
確かに物損事故や人身事故ではないので、事故報告をあげる必要があるとは思いませんね。
道路車両運送法の41条は
自動車は、原動機及び動力伝達装置、車輪及び車軸その他の走行装置、操縦装置などについて国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない
と定めています。この条文が根拠となり、運行を中断するような車両の故障が起きた時は、事故報告が必用となります。
2002年1月に、神奈川県で起こった大型トレーラーの車輪脱落による歩行者死亡事故が発生したのは記憶に新しいかと思います。
こういった事故を水際で防ぐための措置として事故報告が課せられているのです。
確認書に㈱M様の法人印を捺印して監査終了。調査しきれなかった部分は運輸支局に持ち返ってチェックするとのこと。
「いずれにしても「フォローアップ監査」がありますので、それまでに今日指摘した事項はしっかり改善してください」という監査官の言葉で6時間に及ぶ巡回監査はしめくくられました。
警告で済むようなら1ヶ月前後で運輸支局から事業者様に電話が入ります。日車や営業停止などの行政処分がある場合は、3~4ヶ月後に事業者へ通知が入ります。
従って、監査結果の通知が入るタイミングで、処分がある程度判別が付きますね。今回は、行政処分なしで済むのではないかと思いホッとしています。
後日談と監査立会いのまとめ
「結局は、私たちも、運行管理がやれていないことを気付いてないふりをしている所もあるんです。バス事業者さんはね、どこも同じですよ。全部取り締まったバス事業者さんがほとんどいなくなっちゃうしね。でも、グレーでない部分に関してはそうはいきませんけどね。」
「㈱Mさんの場合、指示書と引受書が管理されていないと営業所で管理していない。それでは、名古屋営業所の意味がない。だから、しっかり管理する必用があるんです」とも。
上記は、後日に中部運輸支局へ行ったときに監査官が言っていた言葉です。
やはり、わかってるんですね。違反してること。監査官はある程度裁量を持っていること、そして、彼らも人だということを痛感しました。
だからと言って法令遵守しなくてもいいという話ではないので注意してください、事業者の皆様!
今回は人柄の良い監査官だった時は良いですが、その逆ならどうなるか想像つきますよね。
我が社は、帳票管理しっかりできていますか?
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