運送事業の信頼性の証であるGマーク(安全性優良事業所)は、取得や更新のたびに厳しい審査が伴います。特にGマーク申請後の巡回指導は、書類審査だけではわからない、日々の運行管理の実態が試される最大の関門です。
いつ指導が来るのか準備すべき膨大な書類は何が必要かと、多くの運行管理者や経営者の方々が不安を抱えているのではないでしょうか。この巡回指導は行政処分を下す運輸局監査とは異なり、トラック協会が主体となって行いますが、その結果はGマークの評価に直結するため、軽視はできません。
この記事では、Gマーク維持のための巡回指導を確実にクリアし、さらに事業の安全性を高めるための具体的な対策と準備しておくべき最重要書類について解説します。
Gマークの巡回指導とは何か
Gマークの巡回指導はトラック協会の適正化事業の一環として実施され、運送事業者が運行管理体制や法令遵守の基準を満たしているかをチェックする取り組みです。この指導は行政処分を目的とした監査ではなく、事業者が自ら問題点を発見し改善するための指導・助言を提供する点が特徴です。
指導の結果はGマークの評価項目に反映されるため、Gマークの維持・更新を目的とする場合は特に厳格な対応が求められます。
この巡回指導を正しく理解する上でまず知っておくべきは、誰が何のために実施しているのかという点です。巡回指導を実施するのは、各都道府県のトラック協会が主体となっている地方貨物自動車運送適正化事業実施機関です。
彼らの目的はあくまで運送事業の適正化であり、監査のように罰則を与えることではありません。しかし、Gマークを取得・維持するためにはこの機関の指導基準をクリアすることが必須条件となります。この指導は日々の管理が適正に行われているかを確認する良い機会だと前向きに捉える姿勢が大切です。
巡回指導と運輸局監査の違い
巡回指導
巡回指導は前述の通り地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(トラック協会)が実施します。その目的は指導・助言であり、事業者が法令を遵守し、安全性を高めるためのサポートをすることにあります。指導員がチェックするのは、運行記録や点呼記録などの帳票類が法令通りに作成・保存されているか、車両の整備管理体制が適切か、といった日常の管理業務です。
この指導で仮に不備が見つかった場合でも、その場で改善すべき事項として指摘を受けるだけであり、直ちに罰則や行政処分が下されることはありません。しかし、その後のGマーク審査ではこの指導結果が点数として評価されます。特に、是正勧告を受けたにもかかわらず改善が見られない場合は、Gマークの評価に悪影響を及ぼす可能性があります。
運輸局監査
一方、運輸局監査は国土交通省の地方運輸局が実施するもので、その目的は法令違反の有無を確認し、罰則・行政処分を下すことにあります。これは、巡回指導とは全く性質が異なるものです。
監査は重大事故を起こした場合や悪質な法令違反が疑われる場合に抜き打ちで実施されることが多く、過労運転、飲酒運転、無許可運行などの重大な違反が見つかると車両の使用停止や事業停止といった重い行政処分が下されます。
巡回指導はこの厳しい運輸局監査が入る前に、自主的に法令遵守レベルを引き上げるための予行演習のようなものだと考えると、その重要性が理解できるでしょう。
Gマーク申請における巡回指導のおおまかな流れ
Gマーク申請や更新時の巡回指導は通常、申請書類提出後、審査期間中に実施されます。指導は事前に電話などで日時を調整の上、実施機関の指導員が営業所を訪問し、帳票や書類、そして運行管理の状況を直接チェックします。
この流れを把握し、指導日が決まったらすぐに自主点検表に基づいた書類の整理に取り掛かることが肝要です。Gマーク申請時の巡回指導は、申請した年度の夏から秋頃にかけて実施されることが多いです。ただし、実施時期は地域やその年の申請件数によって変動するためいつ来ても大丈夫な体制を整えておくのがプロの運行管理者としての責務です。
具体的な指導の流れは以下の通りです。
- 事前連絡: 実施機関から、指導日時に関する電話連絡が入る。
- 当日指導: 指導員が営業所を訪問し、事業概況の聴取、帳票の確認、運行管理体制の確認などを行う。
- 指導結果: 違反事項や改善すべき事項がその場で伝えられ、指導書が交付される。
- 改善報告: 指摘事項があった場合、事業者側は期限内に改善を行い、その結果を報告書として提出する。
巡回指導で主にチェックされる事項
巡回指導で確認される事項は多岐にわたりますが、指導員が時間をかけて念入りにチェックする最重要ポイントは決まっています。それは、安全の根幹に関わる記録と人に関する項目です。
ここでは特に注意が必要な4つの重点チェック事項を解説します。
経営計画等に変更はないか
指導の冒頭で確認されるのが事業計画、定款、役員名簿などの経営に関する基本情報です。これはGマーク申請時と比べて、事業所の所在地、役員、車両台数などの基本事項に変更がないかをチェックするものです。
たとえば、申請後に新しい営業所を設置したにもかかわらず、その旨を運輸支局に変更届として提出していない場合、すぐに法令違反として指摘されます。また、運行管理者が変わった場合も同様に、適切な届出が行われているかが確認されます。
このチェックは形式的なものですが会社が行政への手続きを適正に行っているかというコンプライアンス意識を測る最初の指標となるため、申請内容と現状に食い違いがないかを確認することが大切です。
運行管理=日報・点呼簿などの帳票類の管理と保存はできているか
巡回指導において最も時間をかけて厳しくチェックされるのが、運行管理者に関わる帳票類です。具体的には、運転日報、乗務員台帳、点呼簿、運行指示書、指導教育の記録などです。
指導員は、これらの書類が法令で定められた期間(通常1年間など)適切に保存されているかを確認するだけでなく、記録の内容に矛盾がないかを重点的に見ます。たとえば、運行日報に記載されている運転時間と点呼簿に記載されている勤務開始・終了時刻、そして労働時間の記録が整合しているかを突き合わせます。
ここで矛盾が生じていると、記録の捏造や杜撰な運行管理とみなされ、大きな指摘を受けることになります。
車両管理ができているか
運行管理者が車両の運行を管理するのと同様に、整備管理者が車両の管理を適切に行っているかも重要なチェックポイントです。確認されるのは、日常点検、定期点検(3ヶ月ごとなど)、特定整備の記録簿です。
特に小規模な運送会社の場合、整備管理者が運行管理者と兼務していることも多く、記録がおろそかになりがちです。しかし、法令で定められた点検整備記録の作成・保存は必須であり、点検の実施漏れがないか記録簿に不備はないかが細かくチェックされます。
このチェックをクリアするためには整備記録のファイリングを徹底し、誰が見ても整備状況が一目でわかる体制を構築しておく必要があります。
運転者が社会保険・労働保険に加入しているか
Gマークは安全だけでなくホワイトな労働環境を評価する側面も持っています。そのため、ドライバーが法令に基づき社会保険(厚生年金、健康保険)と労働保険(雇用保険、労災保険)に適切に加入しているかは、必須のチェック項目です。
これは運送事業者がドライバーを個人事業主として扱い、社会保険に加入させていないといった、いわゆる偽装請負の疑いを排除するための確認です。法令に基づいた雇用形態と保険加入はドライバーの生活保障と企業の社会的責任の観点から非常に重要であり、未加入のドライバーがいる場合は、Gマークの評価対象外となる可能性が極めて高いと認識すべきでしょう。
巡回指導のときに準備しておく書類
巡回指導をスムーズに終えるための鍵は、チェック項目38項目に対応する書類を、指導員が一目で確認できるように整理しておくことです。指導員が求める書類をすぐに提示できれば、指導員はこの事業者は管理体制ができていると判断し、細部のチェック時間が短縮される傾向があります。
特に、運行管理と労働管理に関する帳票類は、日付順・車両順などで完璧にファイリングし、即座に取り出せる状態にしておくことが、最大の対策となります。巡回指導当日にあたふたしないために、事前に以下のカテゴリで書類を分類・ファイリングしておきましょう。
| カテゴリ | 主な書類と準備のポイント |
|---|---|
| 運行管理関係 | 運転日報(直近3ヶ月分を日付順)、点呼記録簿(直近3ヶ月分、対面・IT点呼の記録を含む)、運行指示書(特定区間・長距離運行分)、乗務員台帳(最新情報に更新) |
| 車両管理関係 | 日常点検記録簿(直近3ヶ月分)、定期点検整備記録簿(3ヶ月点検、年次点検など)、整備管理規程、整備管理者選任届の写し |
| 労働・安全衛生 | 労働時間集計表(直近3ヶ月分、拘束時間含む)、安全衛生管理体制図、安全教育・研修の記録、健康診断結果(産業医の意見書含む)、36協定書 |
| 経営・許可関係 | 事業計画書、事業許可証の写し、役員名簿、社会保険・労働保険の加入証明書(加入状況がわかるもの) |
重要なのは書類が揃っていること以上に、記載内容が正しく、整合性が取れていることです。たとえば点呼簿にアルコールチェックの記録がない、運行日報の時間が労働時間集計表と一致しないといった基本的なミスがないかを最終確認しましょう。
まとめ
Gマーク申請後の巡回指導は、運送事業者にとって、安全管理体制を客観的に評価し、改善点を見つける絶好の機会です。
対応の鍵は、トラック協会の自主点検表を事前に活用し、38項目全てに対応できる準備を整えることです。特に、運行記録、点呼記録、労働時間の帳票の整合性は最も厳しくチェックされるため、ここを重点的に確認しましょう。
次の一手は、指導で指摘を受けた事項を単なる修正で終わらせず、デジタコやドライブレコーダーの導入など、Gマークの加点対象となるような先進的な安全対策へ繋げることです。巡回指導を確実にクリアし、Gマークを維持・獲得することは、顧客や社会からの信頼獲得に直結します。
参考文献
- 厚生労働省労働時間の適正な把握のために
- 愛媛県貨物自動車運送適正化事業実施機関|一般社団法人 愛媛県トラック協会
- 行政処分の基準 | 自動車総合安全情報
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省
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