2022年9月に厚生労働省のトラック作業部会(※)において労使が合意し、2024年4月施行予定の令和改善基準告示の改正案がまとまりました。この記事では、運送業2024年問題を乗り切るために必要な「改正基準告示」の内容を詳しくお伝えします。
すでにトラック運送会社を経営している、これからトラック運送会社を設立しようと考えている方はぜひご覧ください。
まずは改善基準告示とは何かの解説から見ていきましょう。
(※)正確には厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会トラック作業部会
改善基準告示とは
改善基準告示とは、簡単にいうと交通事故防止とドライバーの労働条件改善。主にこの2点を目的として定められた規制で、正確には「労働省告示第7号 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」といいます。
製造業や建設業などにはない特別なルールであり、トラック運送事業者が事業を営むうえで外せない法令です。
昭和30年代の貨物自動車運送事業の発展に伴い、トラックによる重大事故の増加が社会問題になり、自動車運転者の労働時間などの労働条件を改善し交通事故を防ぐために昭和42年に「2・9通達」という規則が定められました。
その後、昭和50年代に一般道や高速道路が整備されると、自動車輸送のシェアはさらに拡大。トラックによる重大事故は増加したため、昭和54年に「27通達」として改正。平成元年には、労働時間短縮という時代の流れにともない「改善基準告示」として通達から告示に格上げされることになりました。
改善基準告示の改正はいつから適用されるか
改正基準告示は、2022年12月を目途に改正され「2024年4月から施行」されることが予定されています。
前述したトラック運送事業者への時間外労働上限規制適用に合わせたかたちとなっています。
改善基準告示改正に伴う罰則
改善基準告示改正に伴う罰則の改定については、2022年9月現在パブリックコメントが出ておらずどう変わるのか、あるいは変わらないのかは決まっていません。
令和の改善基準告示改正(改正基準告示)による変更点
令和の改善基準告示改正により変更される項目は次のとおりです。
- 拘束時間(1日・1カ月・1年)
- 運転時間
- 連続運転時間
- 休息期間
- 分割休息
- 拘束時間と休息の特例
以下で各々詳しくみていきましょう。
拘束時間
拘束時間とは、始業から終業までの休憩時間等を含めた時間を言います。
改正前の拘束時間の規制
- 1日の拘束時間は原則13時間以内、上限16時間以内。15時間超えは週2回まで。
- 1カ月の拘束時間は293時間以内。労使協定がある場合は1年のうち6カ月までは1年間についての拘束時間は3,516時間を超えない範囲内で月320時間まで延長可能。
- 1年の総拘束時間は3,516時間以内
一般貨物自動車運送事業者の間では、これらの規制はよく知られています。しかし、長距離輸送や海上コンテナ輸送を行っている運送事業者は、1日の拘束時間が16時間を超えることが常態となっているなど、長時間労働がなかなか是正されていないのが現状です。
改正後の拘束時間の規制
令和改正後の改善基準告示の内容は次のとおりです。
1日の拘束時間
原則として1日の拘束時間は13時間以内、上限は15時間以内。14時間を超える日は週2回までとなるように努める。
例外として1週間の運行がすべて長距離運送かつ、一の運行における休息期間が住所地以外の場合は当該1週間について2回まで16時間以内可。この場合も14時間を超える回数は週2回までとなるよう努める。
改正前と比べると、原則13時間に変更はありません。しかし、上限が15時間と1時間短縮され、14時間超えは週2回までの努力義務が課されています(努力義務に罰則はありません)。
そして、長距離輸送の場合の例外規定が設けられ、泊りで運行をする場合は1週間に2回まで拘束時間の上限は16時間とすることが許されています。
この例外規定があることで、長距離輸送を行っているトラック運送事業者に一定の余裕は生まれます。しかし、泊り運行をする場合でも無制限に拘束時間を16時間にして良いということではないところに注意してください。
1か月の拘束時間
原則として1カ月の拘束時間は284時間以内。例外として労使協定がある場合、1年のうち6カ月までは1年間についての拘束時間が3,400時間を超えない範囲内で月310時間まで延長可。
ただし、1ヵ月の拘束時間 が284時間を超える月が3ヵ月を超えて連続しないものとし、1ヵ月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努めること。
原則は月拘束時間284時間となり、改正前と比べると9時間短縮されました。1日の拘束時間が13時間だとすると21日勤務がマックスとなる計算です。
4週4休の運送会社の場合は、1日平均約11時間で1日2時間の残業しかできない計算になります。
1年の拘束時間
改正前と比べて1年の総拘束時間は216時間短縮されました。月換算では18時間の短縮です。改正後は、労使協定を結んだとして月の拘束時間は平均約283時間となる計算になります。
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休息期間
令和の改正基準告示で拘束時間の規制が改正されたことに伴い、休息期間も改正されました。以下で休息期間について詳しくみていきましょう。
休息期間とは
休息期間とは、ドライバーが会社の管理下に置かれることなく自由に使える勤務と勤務の間の時間ことで、言い換えると「ドライバーが仕事から完全に開放される自由時間」です。
休憩や仮眠も会社の指揮命令から離れて自由に利用できる時間ですが、仕事の途中で与えられるものであり、会社の命令は届く状態にあります。
対して、休息期間は仕事が終わってから与えられるものであり、完全に自由に使える時間であるという違いがあります。
改正前の休息期間の規制
休息期間は、勤務終了後に最低でも継続して8時間以上与えなければいけません。なぜ8時間かというと、24時間から拘束時間上限の16時間を差し引くと8時間になるからです。
改正後の休息期間
休息期間は、勤務終了後に11時間与えることを基本とし、最低でも継続9時間を下回らないものとする。
例外として、ドライバーの1週間における運行がすべて長距離貨物運送であり、かつ一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合は、当該1週間について2回に限り、継続8時間以上とすることができる。この場合、一の勤務終了後に継続12時間以上の休息期間を与えるものとする。
休息期間は勤務終了後に最低でも継続9時間与えないと法令違反となります。11時間与えることは努力義務であり、今のところ11時間与えなくても罰則はありません。
長距離運行の場合の例外について
ここでいう長距離運行とは一の運行の走行距離が450㎞以上の運行のことを言います。一の運行とは、ドライバーが所属する営業所を出発し、貨物の集配を終えて所属営業所へ帰ってくるまでのことです。
トラック運送では、荷主都合による集配時間に合わせて運行する必要があるため長距離輸送においては拘束時間が長くなる傾向にあります。
こうした実情を加味して長距離輸送を行う場合で、運転者が営業所を発ってから帰ってくるまでの宿泊がすべて運転者の「家」以外の場合は、例外として1週間に2回まで休息期間を8時間まで延長することが認められています。
ただし、一の運行について休息間が9時間未満となる日があった場合は、勤務終了後の休息期間は継続12時間以上としなければいけません。
運転時間|変更なし
運転時間とは、1日の運行でドライバーがハンドルを握って運転する時間の合計のことをいいます。
運転時間は2日平均で1日あたり9時間以内、2週平均で1週間あたり44時間を超えてはいけません。
※この規制についての変更はありません。
連続運転時間
連続運転時間とは、ドライバーが作業や休憩、仮眠など運転以外のことを行わず継続してハンドルを握りトラックを運転している時間のことです。
改正前の連続運転時間の規制
連続運転時間は4時間まで。4時間経過するまでに1回が連続10分以上、合計30分以上になるように運転の中断しなければいけません。
俗に言う430(ヨンサンマル)です。
改正後の連続運転時間の規制
※運転の中断はおおむね10分以上とし、10分未満の運転の中断が3回以上連続しないこととする。
改正後も連続運転時間の上限4時間に変更はありません。ただし、改正前の運転の中断は作業や休憩など、ドライバーが運転をしない時間であれば何でも良かったのに対し、改正後は「休憩」でなければ運転の中断とみなされません。
また、運転の中断は10分未満でも大丈夫ですが、10分未満となる場合は、それが3回連続しないようにしなければいけません。
分割休息(休息期間の特例)
分割休息とは、勤務終了後に与える休息期間を特例的に分割して与えることを言います。分割休息についても令和の改善基準告示改正により変更があったので見ていきましょう。
改正前の分割休息
業務上、勤務終了後に継続して8時間以上の休息期間を与えることが困難な場合は、一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に拘束時間の途中および拘束時間の経過直後に分割して休息を与えることが許されています。
分割された休息は1回4時間以上、合計10時間以上とし、一定期間は原則2週間から4週間程度。業務上やむをえない場合でも2カ月でなければいけません。
改正後の分割休息
業務上、勤務終了後に継続9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合は、一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に、拘束時間途中および拘束時間の経過直後に分割して休息を与えることができる。
この場合、1回継続3時間以上、合計10時間以上の分割した休息期間でなければならず、一定期間とは1カ月程度を限度とする。
また、分割は2分割に限らず3分割も認められるが、3分割された休息期間は1日合計12時間以上でなければならない。3分割される日が連続しないよう努める。
分割休息は1回4時間から3時間に短縮されました。しかし、分割休息を与えることができる一定期間の限度も、2カ月程度から1カ月程度に短縮されています。
そして、3分割も認められるようになりましたが、3分割したあとの休息期間は継続12時間以上与えなければ法令違反となります。3分割する日が連続しないよう努めることも記されていますが、努力義務のため連続しても罰則はありません。
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2人乗務(ツーマン運行)の特例
1台のトラックにドライバー2人が乗務し、交代で運転できるようにすることを2人乗務(通称、ツーマン)といいます。2人乗務の場合、一方のドライバーが運転している間はもう一方のドライバーは休憩できるため、拘束時間についての特例が認められています。
改正前の2人乗務の特例
2人乗務の場合、車両内で身体を伸ばして休息できる設備があるときは拘束時間は最大20時間まで延長でき、休息期間は4時間まで短縮することができます。
改正後の2人乗務の特例
2人乗務の場合、車両内で身体を伸ばして休息できる設備があるときは拘束時間は最大20時間まで延長でき、休息期間は4時間まで短縮することができる。
ただし、車両内の設備が次のいずれにも該当する車両内ベッドまたはこれに準ずる設備(以下、車両内ベッド等と言います)であるときは拘束時間を最大24時間まで延長できる。
また、車両内ベッド等で8時間以上の仮眠を与える場合は、拘束時間を最大28時間まで延長できる。この場合、一の運行終了後、継続して11時間以上の休息期間を与えること。
- 車両内ベッドは長さ198センチ以上かつ幅80センチ以上の連続した平面である
- 車両内ベッドはクッション材等により走行中の路面等からの衝撃が緩和されるものである
2人乗務の場合の原則的な最大拘束時間は20時間、休息期間4時間まで短縮可という定めに変更はありません。
しかし、例外規定が新設されて定められた規格の車両内ベッド等がある場合は拘束時間をさらに28時間まで延長できるようになりました。この場合は勤務終了後に与える休息期間は連続11時間以上あたえなければいけません。
ただし、寝台の幅80センチ以上となると、スカニアなどかなり限られた車種になるので例外規定が適用できるトラックは現状では少ないでしょう。
今後は、この規定に伴い国産トラックメーカーも規格を変更した車種が発売されるかもしれませんね。
フェリー乗船時の特例|変更なし
フェリーに乗船している時間は、時間の長短を問わず原則として休息期間として扱うことができ、乗船中の休息期間は与えるべき休息期間から差し引くことができます。
そして、フェリー乗船時間が8時間を超える場合は、下船した時刻から次の勤務が始まるものとして扱います。
ただし、下船後の休息期間はフェリー下船時刻から勤務終了までの間の時間の倍以上でなければいけません。
※この規制についての変更はありません。
隔日勤務の特例|変更なし
隔日勤務とは1日おきに勤務することを言い、拘束時間は21時間まで延長可能です。
また、事業場内の仮眠施設等で夜間に4時間以上仮眠を与える場合は、2週間中3回まで、2暦日における拘束時間を24時間まで延長できます。
この場合であっても、2週間の拘束時間の合計は126時間(21時間×6勤務)以内とし、勤務終了後は継続20時間以上の休息期間を与えなければいけません。
※主にタクシーに適用される規制です。
※この規制についての変更はありません。
予期しえない事象(新設)
これは令和の改善基準告示改正で追加された規制です。事故、故障、災害など通常予期しえない事象に遭った場合で、タコグラフなど客観的な記録が確認できる場合は
- 1日の拘束時
- 運転時間(2日平均)
- 連続運転時間
の規制について、その対応に要した時間を除くことができます。
予期しえない事象の具体例は下記のようなものが挙げられています。
- 運転中に乗務している車両が予期せず故障した場合
- 運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航した場合
- 運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖された場合や道路が渋滞した場合
- 警報発表を伴う異常気象に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となった場合
改善基準告示が改正される背景
令和の改善基準告示改正は働き方改革に伴う労働時間短縮が背景にあります。平成30年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法といいます)」の成立に伴い労働基準法が改正されました。
この改正ですでに、小売業やサービス業の大企業および中小企業には下記の時間外労働の規制が適用されています。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日の合計について2カ月平均、3カ月平均、4カ月平均、5カ月平均、6カ月平均がすべて1カ月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月まで
そして、2024年4月には貨物自動車運送事業のドライバーには、下記の時間外労働上限規制が適用されることが決まっています。
- 年間の時間外労働の上限は960時間まで
貨物自動車運送事業のドライバーには、これまで残業時間の規制はありませんでした。つまり、どれだけ残業をさせても法律違反にはならなかったということです。
長距離輸送やトラックターミナルの混雑で、ただでさえ長時間労働が叫ばれているトラック運送業界にも、働き方改革関連法案の成立でついにメスが入ることになりました。
ちなみに、一般貨物自動者運送事業者であっても、運転者以外の運行管理者や事務員には一般企業向けの残業時間の上限規制はすでに適用されています。
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まとめ
令和改正後の改正基準告示は、拘束時間と休息期間の規制がこれまでに比べて厳しくなったことがトラック運送事業者にとってのネックとなります。
働き方改革関連法による時間が気労働の上限規制960時間がトラック運転手にも適用され、長距離輸送や海上コンテナ輸送を行う運送会社にとってますますコンプライアンス遵守が難しくなることが予測されます。
今から荷主への協力要請をするなどして来る2024年4月の改正基準告示施工に対応し、勝ち組運送会社になるよう準備が必要です。
運送会社で勝ち組になるには?運送業界や2024年問題も解説も併せてお読みください。
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