「うちは業務委託だから、労働関係の法律は関係ない」——軽貨物ドライバーや下請け運送会社に業務の一部を委託している経営者の中には、そう考えている方が少なくありません。
しかし2024年11月施行の「フリーランス新法」、2026年1月施行の改正下請法(取適法)、さらに2026年4月に一部施行されたトラック適正化二法により、委託契約の実務は大きく変わっています。業務委託契約を結んでいても、実態によっては軽貨物ドライバーが労働基準法上の「労働者」と判断された事例もあり、もはや「契約書さえ作っておけば安心」とはいえません。
ここでは、運送業に関わる委託事業者が押さえておくべき法改正のポイントを整理して解説します。
フリーランス新法とは
正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、令和6年11月1日に施行されました。フリーランス新法では、従業員を使用しない個人や、代表者1人のみで他に役員・従業員がいない法人などが「特定受託事業者」として保護対象になります。一方、発注側については義務によって対象範囲が異なります。
たとえば、取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務は、「業務委託事業者」が特定受託事業者に業務委託をした場合に適用されます。さらに、従業員を使用する個人や役員が2人以上いる法人、従業員を使用する法人などの「特定業務委託事業者」には報酬の支払期日、一定期間以上の委託における禁止行為、ハラスメント対策など、追加の義務が課されます。
ここで見落とされがちなのが、取適法とは異なり、フリーランス新法には「資本金○円以上なら対象」といった資本金要件がないという点です。旧下請法は、取引類型ごとに委託事業者と受託事業者の資本金規模の組み合わせによって適用範囲が決まっていました。これに対しフリーランス新法は資本金額だけで対象・対象外が決まる制度ではありません。
つまり、資本金の少ない中小の運送会社であっても、軽貨物ドライバーや個人事業主の傭車先に業務を委託していれば、規制の対象になり得ます。「うちは小さい会社だから対象外」という思い込みは通用しないというのが、まず押さえておきたいポイントです。
委託事業者に課される主な義務と罰則——「60日ルール」と「30日前予告」
フリーランス新法は発注事業者に複数の義務を課しています。
適用される義務は発注事業者の属性や業務委託期間などによって異なりますが、運送業の委託実務で特に注意したいのは次の点です。
取引条件の書面明示義務
特定受託事業者に業務委託をした場合は給付・役務の内容、報酬額、支払期日、業務を行う期日・場所などの取引条件を書面または電磁的方法で明示しなければなりません。
口頭だけで発注を済ませることは認められていません。
60日ルール
特定業務委託事業者は、物品等を受領した日や役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、定めた期日までに支払う必要があります。そのため、「月末締め翌々月末払い」など、実際の役務提供日から60日を超える支払サイトになる運用は違反となる可能性があります。
また、元委託者から受けた業務をフリーランスに再委託する場合には通常の取引条件に加えて「再委託である旨」「元委託者の名称」「元委託業務の対価の支払期日」を明示することで、元委託業務の対価の支払期日から30日以内のできる限り短い期間に支払期日を設定できる例外があります。これは「元請から実際に入金された日から30日以内」という制度ではありません。
30日前予告
6か月以上の継続的な業務委託について契約を中途解除したり、更新しない場合には、原則として少なくとも30日前までに書面・メール等で予告する必要があります。予告後から契約終了までの間にフリーランス側から解除・不更新の理由について開示を求められた場合には、原則として遅滞なく理由を開示する必要があります。
違反があった場合は、行政から指導・勧告や命令等を受ける可能性があります。一定の命令違反や、法律に基づく報告をしない・虚偽報告をする、立入検査を拒否・妨害するなどの行為については、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、就業環境の整備に関する厚生労働大臣の調査等において、法律に基づき求められた報告をしなかった場合や虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象となる場合があります。「ハラスメント対策をしていない=直ちに20万円の過料」という単純な制度ではない点には注意してください。
さらに公正取引委員会が2026年6月に公表した令和7年度の運用状況では、勧告または指導を行った事件は1,552件に達しています。
このうち運輸業・郵便業は135件(8.7%)で業種別では情報通信業、学術研究・専門・技術サービス業に続いて3番目に多い業種となりました。
運送・物流分野は「これから監視が強まるかもしれない」という段階ではなく、すでに実際の指導・執行対象になっていると考えた方がよいでしょう。
「業務委託のつもり」が労働者と判断されるリスク——軽貨物ドライバーの労働者性
フリーランス新法と並んで見過ごせないのが契約形式が業務委託であっても、実態次第では労働基準法上の「労働者」と判断される可能性があるという点です。
厚生労働省は貨物軽自動車運送事業の自動車運転者について、実際に労働基準監督署が「労働者」に該当すると判断した事例を公表しています。
労働者性は契約書に【業務委託】【個人事業主】と書かれているかどうかだけで決まるものではなく、主に次の要素に加え事業者性や専属性なども含めて総合的に判断されます。
- 仕事の依頼・業務指示に対する諾否の自由があるか
- 業務遂行上の指揮監督があるか
- 時間的・場所的な拘束性があるか
- 他の者に業務を代替させることができるか
- 報酬が労働の対償として支払われているか
実際に厚生労働省が公表している事例では業務遂行上の指揮監督、時間的拘束性、第三者への代替の可否、報酬の労務対償性など複数の事情を総合的に判断した結果、業務委託契約を結んでいた軽貨物ドライバーが労働基準法上の「労働者」に該当すると判断されています。
つまり「配送時間を指定したら即アウト」「ルートを指定したら必ず労働者」という単純な話ではありません。反対に、契約書を業務委託契約にしておくだけで労働者性を否定できるわけでもなく、実際の指示・拘束の程度、仕事を断る自由、代替性、報酬の決め方などを含めた日頃の運用を点検することが重要です。
労働者と判断された場合には、労働時間・割増賃金等の労働基準関係法令への対応が必要となり、未払い賃金の支払いや、労働保険・社会保険の適用関係を遡って確認する必要が生じる場合があります。「業務委託契約書を交わしているから安心」ではなく、契約書と実際の働かせ方が一致しているかを確認しておきましょう。
2026年1月施行の改正下請法「取適法」
もう一つ、運送業の経営者が押さえておくべき動きが、2026年1月1日に施行された改正下請法です。
従来の下請法は改正・改称され、現在は「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」と呼ばれています。今回の改正では、新たに「特定運送委託」が対象取引に加えられました。ここで注意したいのは、「運送会社から下請け運送会社への再委託が2026年から初めて規制対象になった」という意味ではないことです。
新設された「特定運送委託」の中心は発荷主等が、自ら販売・製造・修理等する物品を取引相手に届けるため、運送事業者へその物品の運送を委託する取引です。これにより、これまで旧下請法の直接の対象にならなかった荷主から運送事業者への一定の運送委託も、事業者規模などの要件を満たせば取適法の対象になります。
一方、元請け運送会社が、荷主から請け負った運送の全部または一部を別の運送会社へ再委託する取引については、従来から「役務提供委託」として旧下請法の規制対象になり得る取引でした。現在も取適法上の役務提供委託として適用を検討することになります。
資本金だけでなく「従業員数」でも取適法の対象を判断
2026年改正で実務上とりわけ重要なのが、適用基準に資本金だけでなく「常時使用する従業員数」の基準が追加されたことです。
取引類型に応じて、300人または100人を基準とする従業員基準が新設され、資本金基準では対象にならなかった取引でも新たに規制対象となる場合があります。ここでいう従業員数は「その発注を担当している部署に何人いるか」という意味ではなく、原則として事業者単位で常時使用する従業員数を確認して判断します。
そのため、「この営業所には数人しかいない」「配送部門は少人数だから対象外」といった判断は危険です。
取適法で委託事業者が注意したい義務・禁止行為
取適法の対象となる取引では、次のような対応が必要です。
- 発注内容や代金額、支払期日等の明示
- 給付を受領した日・役務提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間への支払期日の設定
- 手形払いの禁止
- 一定の電子記録債権・ファクタリング等による支払の禁止
- 不当な代金減額
- 買いたたき
- 正当な理由のない受領拒否
「60日以内の現金払いが絶対」という制度ではありませんが、2026年からは手形払いが禁止され、電子記録債権やファクタリング等についても、支払期日までに代金満額相当の現金を得ることが困難な支払方法は認められません。
また価格決定についても、「価格協議を求められたら必ず相手の希望価格を受け入れなければならない」という制度ではありません。問題になるのは、中小受託事業者から価格協議を求められたにもかかわらず協議に応じない、必要な説明・情報提供をしないなどして、一方的に代金額を決定する行為です。
運送原価や人件費、燃料費等が変動している現在では、従来以上に価格協議のプロセスを記録しておくことが重要になります。
2026年4月からは再委託・利用運送のルールもさらに強化
運送業の委託実務では、取適法だけでなく貨物自動車運送事業法の改正も確認する必要があります。
2025年4月1日からは、運送契約締結時等の書面交付義務、委託先の健全な事業運営を確保するための健全化措置、一定規模以上の事業者における運送利用管理規程・運送利用管理者、実運送事業者の名称等を記載する実運送体制管理簿の作成・保存などが施行されています。
さらに2026年4月1日からは、トラック適正化二法の一部施行により、貨物自動車運送事業者・貨物利用運送事業者に再委託の回数を原則2回以内とする努力義務、貨物利用運送事業者への委託先に対する書面交付義務等の準用、元請となる貨物利用運送事業者への実運送体制管理簿の作成義務なども新たに施行されています。
そのため、軽貨物ドライバーへの直接委託だけでなく、「荷主→元請運送会社→利用運送会社→実運送会社」のような多重委託を行っている事業者は、フリーランス新法・取適法・貨物自動車運送事業法を横断して契約実務を点検する必要があります。
まとめ
今回ご紹介したフリーランス新法や取適法、貨物自動車運送事業法の委託ルールへの対応も、運送会社の経営者にとって今後ますます重要になるテーマです。
フリーランス新法と2026年施行の取適法はいずれも「業務委託だから法律上の制約は少ない」という従来の認識を見直す必要に迫る制度変更です。
さらに2026年4月からは、貨物自動車運送事業法でも委託次数の適正化や、貨物利用運送事業者への書面交付・実運送体制管理簿の義務拡大などが施行されています。
軽貨物ドライバーや下請け運送会社への委託を行っている運送会社は発注条件や支払サイトが法令に対応しているか、取引条件や運送契約を書面・電磁的方法で適切に明示しているか、再委託の構造や実運送事業者を把握できているか、実態としてフリーランスが「労働者」に近い働き方になっていないか、という観点から契約実務を点検しておく必要があります。
特に公正取引委員会の令和7年度実績では、運輸業・郵便業についても135件の勧告・指導が行われており、運送業界もすでにフリーランス法の実際の執行対象になっています。
なお、個別の取引がフリーランス新法・取適法・貨物自動車運送事業法等の適用対象になるかどうかは契約当事者の属性、従業員数、資本金、取引内容、委託期間、実際の業務実態などによって異なります。
詳細については、個別の取引内容を確認したうえで専門家にご相談いただくことをおすすめします。
参考文献
- 中小企業庁「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」
- 公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」
- 公正取引委員会「フリーランス新法 Q&A」
- 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況及びフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組」(令和8年6月10日)
- 厚生労働省「貨物軽自動車運送事業の自動車運転者に係る労働者性の判断事例について」
- 中小企業庁「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~ 改正ポイント説明会」資料
- 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」
- 国土交通省「トラック適正化二法について」