トラック運送業において、原価計算は業務効率化や収益向上のために欠かせない重要な要素です。
しかし、具体的にどのように原価計算を実施し、どのように活用すべきかが分からない運送事業者も多いのではないでしょうか?
本記事では、トラック運送業における原価計算の実施手順を分かりやすく解説します。
実際にどのように原価データを活用して業績向上に繋げているのか、具体的な事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
トラック運送業の原価計算とは?
トラック運送業における「原価計算」とは、運送サービスを提供する際にかかる費用(原価)を計算することを指します。
原価には、燃料費や車両費、人件費など、運送業務に直接かかわるものだけでなく、車両の税金や保険料、整備費といった間接的なものも含まれます。
原価計算を行うことで、運送業務にかかるコストを可視化できるため、過剰なコストを削減したり、効率的なリソースの分配が可能になったりします。
トラック運送業における原価計算の重要性
トラック運送業において原価計算が重要視される背景には、以下のような理由があります。
- 適正な運賃を設定するため
- 業務効率化と品質向上を目指すため
それぞれ順番に解説します。
適正な運賃を設定するため
トラック運送業で安定した収益を確保するためには、適正な運賃の設定が不可欠です。
適正な運賃を設定するためには、運行にかかるすべてのコストを正確に把握し、それを基に運賃を決定する必要があります。その際、基盤となるのが「原価計算」です。
運賃を高く設定しすぎると、競争力の低下や需要減少に繋がるおそれがあります。
しかし、運賃が低すぎても、収益が悪化して赤字を招く可能性も。
このように、運賃設定には慎重なバランスが求められますが、原価計算を行うことで、運行にかかるすべてのコストを正確に把握し、その上で適切な運賃を算出することが可能となります。
業務効率化と品質向上を目指すため
トラック運送業における原価計算は、業務の効率化と品質向上を実現するためにも有効な手段です。
原価計算を行うことで、どの部分でコストが発生しやすいかを可視化できます。
これにより、効率的な運行ルートの設定や、無駄のないリソースの配分が可能となり、業務効率化を図れます。

原価計算の実施手順とポイント
ここからは実際に、トラック運送業における原価計算の実施手順とポイントを解説します。
原価計算の実施手順は、ざっくりと以下のとおりです。
- 運送事業に関する損益計算書を作成
- 実運送と利用運送それぞれの売上・費用を区分
- 車両に紐付く費用を割付け(紐付かない間接費は車両に配分)
- 車両別に「1kmあたりの変動費」と「1時間あたりの固定費」を算出
- 車両別の原価データを加工し、取引先別・運行ルート別の平均原価を算出
以下で、それぞれの原価計算のポイントを見ていきましょう。
運行費
運行費とは、走行距離に比例して発生する以下のような費用のことを言います。
- 燃料費
- 油脂費
- 尿素水費
- 修理費(車検整備費・一般修理費)
- タイヤチューブ費
燃料費
燃料費の原価計算では、1km当たりの燃料費を算出し、走行距離に応じた燃料費を求めます。
計算式は以下のとおりです。
平均燃料単価 ÷ 燃費 = 1km当たりの燃料費【走行距離に応じた燃料費】
1km当たりの燃料費 × 走行距離 = 燃料費
平均燃料単価は消費税抜きの価格を使用し、燃費は運行条件により変動するため、年間の平均燃費を採用します。
また、原価計算の期間に応じて、使用する燃料単価を調整します。
【3ヵ月単位の場合】3ヵ月分の平均調達単価を算出
運送業では主に軽油を使用しますが、ガソリンやCNG(天然ガス)なども活用されます。
燃料の種類ごとに単価が異なるため、計算期間内の平均燃料単価を適切に算出することが重要です。
油脂費
油脂費の原価計算では、1km当たりの油脂費を算出し、走行距離に応じたコストを求めます。
計算式は以下のとおりです。
(オイル必要量 × オイル単価)+ オイルフィルター費 + 交換工賃 = 1回当たりの油脂費
【1km当たりの油脂費】
1回当たりの油脂費 ÷ 交換走行距離 = 1km当たりの油脂費
【総油脂費】
1km当たりの油脂費 × 走行距離 = 油脂費
なお、油脂費にはエンジンオイル費のみを含み、ブレーキオイルやミッションオイルなどは修理費として扱います。
オイル単価は燃料費ほど変動しませんが、変更があった場合は最新の単価で原価を把握する必要があります。
なお、オイル単価は消費税抜きで処理します。
尿素水費
尿素水費の原価計算では、1km当たりの尿素水費を算出し、走行距離に応じたコストを求めます。計算式は以下のとおりです。
(尿素水の必要量 × 尿素水単価)÷ 交換走行距離 +(フィルター費 + 交換工賃)÷ 交換走行距離 = 1km当たりの尿素水費
【総尿素水費】
1km当たりの尿素水費 × 走行距離 = 尿素水費
尿素水(AdBlue等)は、1ℓあたりの走行距離は50〜200km程度となることが一般的です。
タイヤチューブ費
タイヤチューブ費の原価計算では、1km当たりのコストを算出し、交換走行距離に応じた費用を計上します。
通常の経理処理では、タイヤチューブを交換した月に全額を計上しますが、この方法では特定の月のコストが大きくなり、コスト管理が不適切になります。
そのため、交換までの走行距離に応じて費用を分配し、計算対象期間の走行距離分を費用として計上します。
(タイヤチューブ費 + 交換工賃等)÷ 交換走行距離 = 1km当たりのタイヤチューブ費
計算には、交換工賃や外部委託費(例:ローテーションの委託費用)も含めます。
また、夏タイヤと冬タイヤを使用する場合は、それぞれの単価の違いを考慮し、加重平均を算出することもあります。
なお、一般道と高速道路でタイヤの摩耗度合いは異なりますが、原価計算では区別せずに算出するのが一般的です。
車検整備費、一般修理費
修理費の原価計算では、1km当たりの修理費を算出します。
車検整備費は固定費として計上されることもありますが、実際には走行距離に応じて変動するため、走行距離で割って1km当たりの修理費を求めます。
計算式は以下の通りです。
(車検整備費 + 一般修理費)÷ 走行距離 = 1km当たりの修理費
修理費は計上月によって変動するため、次のいずれかの方法で計算を行います。
②今期の予想修理費 ÷ 今期の予想走行距離
また、修理費がリース料金に含まれている場合は、その金額分を抜き出して処理します。
さらに、走行距離実績をもとに、車検整備費や一般修理費を定額で支払っている場合は、以下の式で1km当たりの修理費を算出します。
通行料等
通行料とは、高速道路の利用料、フェリーの利用料、駐車場の施設利用料のことです。
割引が適用されている場合は、割引後の料金を費用として計上します。
例えば、高速道路の大口多頻度割引を利用している場合、割引後の金額をもとに計算します。
なお、高速道路利用料は、事業者が実際に支払った金額のみを計上し、運転者が負担した料金は除外します。
駐車場利用料については、配送の際にコインパーキングを利用した場合の費用を計上しますが、会社の駐車場に関する費用は一般管理費として処理します。
車両費
車両費は、トラック車両に直接割付けできる費用であり、車両の調達費用を法定耐用年数に基づいて減価償却します。
減価償却の計算式は、1ヶ月あたりの車両費を求めるために以下の式を使用します。
新車を購入した場合、償却月数(年数)は法定耐用年数を使用します。
一方、中古車両を購入した場合で、法定耐用年数をすでに超過している場合は、車両取得時からの使用予定年数で減価償却を行います。
車両の税金
車両の税金とは、トラック車両を取得・保有することによって課される税金のことです。
主な税金には自動車取得税、自動車重量税、自動車税などがあります。
これらの税金は、車両ごとに実際に支払った金額を基に割り当てます。
その際、支払う税金が何ヶ月分であるかを確認し、適切に費用計上します。
車両保険費
車両保険費には、トラック車両に直接割付けられるものと、直接割付けられないものの2種類があります。
1つ目は、トラック車両に直接割付けられる保険費です。
例えば、自賠責保険などは各車両の支払実績が明確であるため、個別に車両に割り当てます。自賠責保険の金額を加入月数で割ることで、1ヶ月あたりの費用を算出します。
2つ目は、トラック車両に直接割付けられない保険費です。
任意保険や運送保険、運送業者賠償責任保険、運送業総合保障保険などは会社単位で契約されることが多く、車両ごとに直接割付けることができません。
こうした保険費は、間接費(一般管理費など)に含めて、配分基準に従って各車両に配分します。
運転者人件費
人件費には、法定福利や福利厚生費(健康診断代、昼食代など)、退職金(退職給与引当金)が含まれます。
なお、運行管理者や役員などの管理者の人件費は一般管理費として分類されます。
人件費の算出方法は以下の3つの方法があります。
ドライバーが特定の車両1台に乗務する場合は、実際に支払った人件費を計上します。
複数の車両に乗務する場合は、各車両の乗務時間に応じて、支払い実績額を按分します。
【1時間あたりの運転者人件費×車両稼働時間】
運転者人件費総額を全体の車両稼働時間合計で割り、1時間あたりの人件費を算出。
その後、車両稼働時間に1時間あたりの運転者人件費を掛けて、各車両に割り当てます。
【平均月額(年間人件費÷12)】
運転者の年間人件費を12ヶ月で割り、均等に按分します。
簡便な方法ですが、精度が高くない点には注意が必要です。
トラック運送業における原価計算の活用事例
2016年11月に国土交通省が実施した「トラック運送業における原価計算に関するアンケート」によると、約6割の運送事業者が原価計算を実施していることが分かります。
また、原価計算を実施している運送事業者のほとんどが、そのデータを荷主との契約条件の見直し交渉や、コスト削減に活用していることが明らかになっています。
ここでは、原価計算データの具体的な活用事例について紹介します。
事例① 原価計算データを示して運賃の引き上げに成功
運送事業者Aは、1990年代に受注した運送業務を継続していましたが、燃料費や車両価格の上昇により、2015年7月時点で大幅な赤字となっていました。
都度、荷主に交渉したものの、運賃の引き上げには応じてもらえず、他の業務で赤字を補填する状況が続いていました。
そこで、原価計算を実施し、運送原価に対して収受運賃が6%下回っているデータを提示。10%の値上げを要請した結果、8%の引き上げが認められました。
さらに、1990年からの原価データを示し、コスト上昇の実態を詳しく説明したところ、17%の値上げ要請が満額で受け入れられました。
事例② 赤字路線を抽出して利益を確保
運送事業者Bは、元請事業者と10年以上取引があったものの、依頼内容が都度変化していたため、1運行ごとの損益を踏まえた判断ができていませんでした。
しかし、荷待ち時間の長時間化を受け、原価管理による業務効率化の必要性に迫られました。
各車両の固定費・変動費などの原価データを算出し、手待ち時間や附帯作業のコストを元請事業者に提示。適正な運賃が確保できない場合は、受注しない方針を徹底しました。
また、拘束時間が長くなる着荷主の仕事では、手待ち時間分を上乗せした見積もりを提示し、取引条件の見直しを前提に発注の意向を確認するようにしました。
現在では、原価計算データを活用した表計算システムを導入し、1運行ごとの損益を瞬時に判断できる体制を整えています。
まとめ
トラック運送業における原価計算は、適切な運賃設定や業務効率化、品質向上に欠かせない要素です。
原価計算をしっかりと行うことで、運送業の経営はより安定し、収益性の向上が期待できます。
今後、原価計算を積極的に活用し、経営改善を進めていくことが重要です。
― 運送業許認可に関するお問い合わせは下記までお気軽に ―

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