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会社の経営を後継者へ引き継ぐ事業継承。現役で運送業を営んでいる社長にとっては、まだまだ先の話と感じるかもしれませんが、事業継承は早めに準備しておくに越したことはありません。
この記事では、事業継承の種類や、事業継承を成功させるためのポイントをわかりやすく解説しています。ぜひご参考にしてください。未来の事業継承について考える前に、まずは、トラック運送業界の現状と問題から見ていきましょう。
トラック運送業界の現状と問題
インターネット通販の活発化を背景に、トラック運送業の市場規模はますます拡大しています。少子高齢化の時流を受けて、市場規模が縮小している業界が多い中で、運送業の将来性は今後も期待できると言っていいでしょう。
特に、2020年以降は新型コロナウイルスの影響で、ステイホームや在宅ワークといった新しい生活様式が急速に普及。もともと好調だったECサイトの需要が、さらに急拡大しています。
このように好調なトラック運送業界の中で、問題となっているのが、大手企業と中小企業の待遇格差です。
待遇格差の要因は、急速な需要拡大による価格競争。ECサイトの事業者としては、早く安く運んでくれる運送会社にお願いしたいため、運送会社同士で価格競争がおき、利益を圧迫してしまうのです。
また、数あるトラック運送会社の中でも大手企業はひとにぎりで、9割が中小企業。中小運送会社は二次請け・三次請け(四次請け・五次請け以降というケースもあります)となるため、利益率はどんどん悪化します。
何とか利益を確保しようとして、ドライバーの給与が下がったり長時間労働になったりと、待遇格差が起こってしまうのです。近年では、長時間労働を是正するために働き方改革が徐々に進んでいます。
事業を長期的に続けるためには、ドライバーの待遇格差を埋める取り組みを真摯に行なう必要があるでしょう。
長時間労働是正について気になる方は「2024年改正改善規準告示を解説!いつ/拘束時間/休憩時間/罰則etc」も併せてお読みください。
事業継承の種類は主に3つ
ここからは、トラック運送業の現状を踏まえて本題の事業継承について解説していきます。事業継承とは、会社の資産や人材などを後継者に引き継ぐこと。いつかは訪れる事業継承ですので、どんな方法をとるのかじっくり検討しておくことをおすすめします。
事業継承には、主に3つの方法があるので、それぞれの特徴を順番に見ていきましょう。
1 親族内承継
親族内継承とは、親から子など親族に経営権を譲り渡すことです。
子供が複数いる場合や、親戚内で継承の可能性のある人がいる場合は、経営者としての資質や適性を見定めて、後継者を選びましょう。後継者を選んだら、できれば10年ほどかけて後継者教育を行ない、次期社長本人にも経営者としての自覚をつけていきます。
しっかりと時間をかけて引き継ぐことで、社内外から後継者として徐々に認めてもらい、継承を進めましょう。
2 親族外承継
親族外継承は、子が経営者に向いていない・引き継ぎを拒否するといった場合に、親族以外へ経営をバトンタッチすることです。
役員や従業員が経営者となる場合、実務を熟知しているため、後継者教育は短期間でも進めやすいことが特徴。しかし、現場の仕事ができることと、経営面での知識や能力は別物なので、経営面でのフォローは必要です。
また、経営権の譲渡には、役員が株式を買い取るMBOと、従業員が株式を買い取るEBOという2種類があります。
3 M&Aによる承継
事業継承というと、親族や従業員に会社を譲ることをイメージされる方が多いと思います。しかし最近では、M&Aも非常に増えています。
M&A(エムアンドエー)とは
M&Aとは、合併や買収により会社の経営権を譲渡することで、仲介業者が間に入り、譲渡価格の決定や買収企業の候補との交渉をしてくれます。
双方の企業の調査や評価、契約手続きなども仲介業者が行なうため、親族内継承や親族外継承に比べると、短期間でスムーズに譲渡が進みます。
M&Aで事業を譲渡するメリットは、相手企業が経営ノウハウを持っているため、後継者教育などの必要がないことです。また、複数の会社が合体することにより、事業規模が拡大し経営の合理性が高まることも期待できます。
デメリットは、安くても500万円前後、高いと数千万円という売買価格にプラスして仲介業者への手数料が発生することです。
運送業の事業継承を成功させるには
ここからは、事業継承を成功させるためのポイントを見ていきましょう。
ポイント1| 早めに行動を起こし準備する
何より大切なことは「早めに行動を起こすこと」です。事業継承は、どの方法をとったとしてもそれぞれ複雑なプロセスがあります。
子を後継者として育てるならまずは現場の仕事をイチから教えなければいけませんし、従業員を後継者にするなら経営ノウハウを身に付けさせる必要があります。
M&Aをするにしても、買収先企業の選定や初めての手続きが様々にあるので、思い立ってすぐ実現できることではありません。早めに行動を起こし準備することが、最も大切なことです。
後継者教育には10年かかる
次の社長を誰にするかを選定することも、適正を見てじっくり慎重に行ないますが、その後の後継者教育はさらに重要です。後継者教育には「10年かかる」と認識して取り組むことをおすすめします。
急ぎ足で後継者教育を行なった結果、社内をうまく統率できずに従業員が流出してしまうケースも実は多いのです。継承後も共に働き経営者を支える従業員との信頼関係を構築する意味でも、じっくりと後継者として育てる期間を設けましょう。
ポイント2| 社外の関係者から事業継承の理解を得る
社外からも事業継承への理解を得ることもポイントです。社外から十分な理解を得ることなく事業継承を押し進めてしまうと、取引先が不信感を抱いてしまいます。
その結果、新体制になった途端に取引先が離れてしまい経営不振に陥るという最悪のケースも起こり得ます。
事業継承には、社内はもちろん、取引先にも十分な理解を得てから進めていくことが大切です。
ポイント3| 経営方針や理念、相性の合う後継者を選ぶ
ポイントの3つ目は、後継者との経営方針と相性です。少し感覚的な話になってしまいますが、会社にはそれぞれカラーがあり、大切にしたい企業風土があります。
事業を継承する上で、「社長の長男だから」「敏腕経営者だから」といった条件だけで選んでしまうと、それまでの会社の経営方針が根底から崩れてしまうリスクがあります。
経営方針がいきなり変わってしまうと、新社長に賛同できない従業員が出て内部分裂や離職が起こり、経営破綻ということも。親族や従業員へ継承するにしても、M&Aをするにしても、条件だけでなく企業の体質に合う人材という点も、大切にする必要があります。
まとめ
事業継承には複数の方法があり、会社の置かれた状況により、ベストな方法は異なります。「まだまだ現役で事業継承なんて先」と後回しにせず、じっくり会社の未来について考えてみてはいかがでしょうか。
事業継承の成功のコツを参考に、早めに準備することをおすすめします。