運送業界の自動点呼が、2023年の1月から実施されました。
AIロボットなどの機器が運行管理者の代わりに点呼をおこなうというもので、数回にわたる実証実験の末、ついに一般企業にも導入が認められました。
しかし、「自動点呼がどんなものかは想像が付くけど、実際どういったものなのかはわからない…」という方のために、本記事では運送業界における自動点呼について解説していきます。
導入する要件や概要も詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
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運送業界の自動点呼とは
自動点呼とは、AIロボットなどの「点呼支援機器」が運行管理者に代わってドライバーの点呼を実施するというもので、国土交通省主催の検討会で2018年から導入に向けて検討が進められてきました。
点呼機器を導入することによって、運行管理者の長時間労働や人的ミスを減らし、点呼の確実性を上げることを目的としています。
点呼支援機器(ロボットなど)がドライバーの点呼を代行
運送業界における点呼は、輸送の安全を確保するために、原則対面でおこなうことが義務付けられています。
しかし近年、労働環境の悪化や人手不足が業界内で深刻な問題となっており、解消に向けた取り組みについて検討がなされてきました。
そこで議題に上がったのが、「ICT(情報通信技術)機器」を活用した自動点呼案です。
ICT機器が運行管理者に代わって毎日の点呼をおこなうことで、運行管理の効率化を図り、運行管理者の負担を軽減することが期待されています。
2023年1月から運用が始まった
機器を使用した自動点呼は、2023年の1月から実施されています。
運送業事業者は認定された機器を用意し、運輸支局長へ申請書を提出した後で、自動点呼の実施が可能になります。
現時点で導入が認められているのは乗務後のみ
現時点では、実施項目が少なく、比較的実現が容易な「乗務後点呼」のみ、自動点呼の導入が認められています。
「乗務前点呼」に関しては、詳細かつ総合的な判断が必要となるケースが多いため、自動化はまだ認められていません。
そのため導入申請をおこなったとしても、乗務前点呼に限ってはこれまで通り、運行管理者が対面のもとで点呼をおこなう必要があるため注意が必要です。
IT点呼との違い
IT点呼とは、IT機器を通して点呼をおこなうというもので、テレビ電話やネットワーク機器を通して、運行管理者が疑似対面で点呼を実施します。
わかりやすく言うと、リモートで点呼をおこなうようなイメージです。
IT点呼と自動点呼の違いは、運行管理者が点呼をおこなうか、そうでないかです。
IT点呼は、運行管理者がネットワーク機器を使用して遠隔で点呼をおこないますが、自動点呼ではAIロボットなどが運行管理者の代わりに点呼をおこないます。
現時点では、輸送の安全確保に関する取り組みが優良だと判断された営業所に限り、IT点呼の使用が認められています。
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自動点呼を実施するための3つの要件
国土交通省は自動点呼に確実性を持たせるために、以下の3つの要件を設定しました。
- 機器・システムが満たすべき要件
- 施設や環境の要件
- 運用するうえで守るべき事項
自動点呼に関しては基本的に機器が点呼をおこなうものの、非常時や故障時には運行管理者の対応が必要になります。
また、対面時の点呼と同様に、自動点呼における責任は事業者または運行管理者が負うものとしています。
機器・システムが満たすべき要件
1つ目は、点呼支援機器や、そのシステムが満たすべき要件です。
大きく分けると、次の4つの項目に分類されます。
- 乗務後の自動点呼に関する基本要件
- なりすましの防止
- 運行管理者の対応が必要となる際の警報・通知
- 点呼結果や機器故障時の記録
以下で一つずつ解説していきます。
①乗務後の自動点呼に関する基本要件
乗務後の自動点呼における基本要件は、以下の4つです。
- アルコール測定をおこなっている様子を写真や動画で記録する
- ドライバーが報告した内容を記録、または対話形式で報告を受ける
- 運行管理者が伝えるべき指示をドライバーごとに伝達する
- 点呼の結果などを運行管理者がチェックできる機能を備える
乗務をするにあたって必要となる情報の共有や伝達を、通常の対面点呼と変わりない状態でおこなえる機能を備えた機器を使用する必要があります。
②なりすましの防止
なりすましの防止も、機器・システムが満たすべき要件です。
機器やそのシステムが、事前に登録のあるドライバーのみ点呼やアルコール測定を実施できるよう、生体認証機能を備える必要があります。
また、搭載されている生体認証機能は、個人を確実に識別できるものでなければいけません。
③運行管理者の対応が必要となる際の警報・通知
運行管理者の対応が必要となる際の警報・通知の要件とは、
- ドライバーの酒気帯び
- 予定時間になっても点呼されない
- 点呼項目がすべて実施されない
上記のようなことがあった際には、点呼を完了させない、かつ運行管理者に通知がいくようなシステムを備える必要があります。
また、機器の故障が発生した場合には故障内容を表示すると同時に、運行管理者が気付くように通知を発し、直るまでは点呼をおこなえないようにする機能を備えていると望ましいです。
このことを踏まえて、運行管理者は、警報などを発生させたドライバーとのやり取りや別の乗務員を確保するために、いつでも対応できる状態でなければいけないということになります。
④点呼結果、機器故障時の記録
- ドライバーごとの点呼結果を記録して1年間保持すること
- 機器が故障した際に、故障日時や内容を記録して1年間保持すること
- 記録された結果や故障内容の修正ができないこと、修正した場合であっても修正前の記録が消去できないこと
- 記録された情報をCSV形式などで出力できること
点呼機器は原則、ドライバーごとの点呼結果や機器自体の故障内容を記録し、その後1年間保持できるものでなければなりません。
また、記録された情報の修正ができないこと、修正した場合であっても修正前の情報が消去できないものである必要があります。
施設や環境の要件
2つ目は、施設や環境の要件です。
- なりすまし
- アルコール検知器の不正使用
- 決められた場所以外での点呼の実施
上記の行為を防止するため、乗務後点呼をおこなうドライバーの姿を運行管理者がチェックできるように、営業所などに監視カメラを設置する必要があります。
運用するうえで守るべき事項
3つ目は、自動点呼をおこなううえで守るべき事項です。
事業者や運行管理者は、必要な情報をドライバーに伝えたり、点呼ができる体制を整えたりする必要があります。
運行上の遵守事項は、大きく分けて次の3つに分類されます。
- 事業者や運行管理者が守るべき事項
- 非常時の対応
- 個人情報の管理
こちらも一つずつ解説していきます。
①事業者や運行管理者が守るべき事項
事業者や運行管理者には、自動点呼を実施するうえで守るべき事項がいくつか存在します。
- 事業者は、点呼の運用に関して必要な情報をドライバーに周知する
- 機器を正常な状態かつ故障がないように保持すること
- 点呼に用いる機器を指定の場所から持ち出されないようにする
- 機器の使い方についてドライバーなどに教育をおこなう
- 運行管理者は自動点呼の実施予定や結果を把握し、未実施を防止すること
- 運行管理者はドライバーに対して必要な指導や指示をおこなう
- 事業者はドライバーが携行品(鍵など)を返却したことを確認すること
簡単にまとめると、事業者や運行管理者は、ドライバーをはじめとする他の利用者が機器を正しく使用できるような体制を整える必要があるということです。
また、点呼を実施するのが機器であったとしても、対面点呼と同様、その責任は事業者または運行管理者が負わなければなりません。
②非常時の対応
非常時の対応についても、以下の遵守事項が定められています。
- 酒気帯びが検知された際には運行管理者が適切な措置をとる
- 予定時刻から一定時間が経っても点呼がおこなわれない際は、運行管理者が適切な措置をとる
- 機器が故障した場合は、運行管理者が点呼を実施する
- 緊急の報告については、ドライバーから運行管理者に報告できる体制を整える
非常時には運行管理者の対応が必要になります。
どんな非常事態にもすぐに対応できるよう、体制をしっかりと整えておくことが重要です。
③個人情報の管理
- 生体認証にドライバーの個人的な情報を使用する際には事業者が事前に同意を得る
点呼支援機器では、ドライバーの生体情報や個人情報を用いて点呼をおこないます。
そのため、機器に情報を登録する際には、事業者がドライバーに対して個人情報を使用しても構わないか確認する必要があります。
自動点呼を導入するための要件とは?
次に、自動点呼を導入するための要件について紹介します。
点呼支援機器を営業所などに導入するにあたって必要となる要件は以下の2つです。
- 認定済みの自動点呼機器を用意
- 運輸支局長へ事前に申請書を提出
認定済みの自動点呼機器を用意
まずは、国土交通省認定済みの「点呼支援機器」を用意する必要があります。
点呼機能が備わっている機器なら何でもいいわけではなく、必ず国土交通省の認定を受けた機器を使用しなければなりません。
現時点で認定を受けている機器は、国土交通省のホームページから確認することができます。
運輸支局長へ事前に申請書を提出
認定機器の用意ができたら、次に、運輸支局長へ自動点呼の申請書を提出します。
申請書は、自動点呼をはじめる10日前までに提出しなければなりません。
申請書の様式は、国土交通省のホームページからダウンロードすることが可能です。
自動点呼を導入するメリット
今後、点呼支援機器の導入を検討している方に向けて、自動点呼を取り入れる2つのメリットを紹介します。
- 運行管理者の負担を軽減できる
- 人的ミスの減少が見込める
運行管理者の負担を軽減できる
自動点呼を導入する1つ目のメリットは、運行管理者の負担を軽減できる点です。
今までは、乗務前と後の両方において、運行管理者(または補助者)が対面点呼をおこなわなければなりませんでした。
自動点呼を導入することで、ドライバーのアルコールチェックや運行情報の確認など、点呼に係る一連の業務を点呼支援機器に任せられるようになるので、運行管理者の負担が一気に軽減します。
ただし、機器の故障や事故時など、なんらかのトラブルが発生した場合には、従来通り運行管理者が対応しなければならないため注意が必要です。
すべての業務が完全に手から離れるわけではありませんが、点呼支援機器を導入することで、今までよりも業務上の負担が減ることは間違いないでしょう。
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人的ミスの減少が見込める
自動点呼を導入することで、人的ミスの減少にも繋がります。
運行管理者も1人の人間です。人間は完璧ではないので、たとえどんなに気を付けていたとしても必ずミスをしてしまいます。
それに引き替え、点呼支援機器はプログラミングされた機械です。
故障や不具合がない限りは、プログラミングされた通りに任務を遂行するため、人間のように人的なミスを起こすこともありません。
自動点呼を導入するデメリット
一方で、自動点呼を導入するデメリットも存在します。
- 導入費用や利用料がかかる
導入費用や利用料がかかる
自動点呼を導入するデメリットは、導入費用や利用料がかかる点です。
現時点で国土交通省に認定されているAIロボット点呼機器「Tenko de Unibo(ユニボ)」の場合、
月額利用料:約9万円(3年レンタル方式)
となっています。
※2023年1月時点ではキャンペーン価格で、上記の価格より割り引かれています。
性能がいい分、どうしてもコストはかかってしまいます。
乗務前点呼においても今後自動化を進める方針
なお、乗務前点呼においても、今後自動化が進められる方針です。
国土交通省主催の「運行管理高度化検討会」では、2023年4月~6月に第1次実証実験、7~9月に第2次実証実験がおこなわれる予定ということが公表されました。
この2度にわたる実証実験の結果次第で、乗務前点呼に関しても、自動化が進んでいくと思われます。
まとめ
本記事では運送業界の自動点呼について解説しました。
2023年の1月から、乗務後点呼に限り、機器による自動化が認められました。
運送事業者が自動点呼を導入するためには、国土交通省に認定された機器を用意し、自動化を開始する10日前までに運輸支局長へ申請書を提出する必要があります。
自動点呼は、運行管理者の業務上の負担や人的なミスを減らすことができます。
一方で、導入費用や、その後の利用料でコストがかかってしまうため、自動点呼を導入する際は、メリット、デメリットともにしっかりと理解したうえで、導入することをおすすめします。
運送業許認可や巡回指導・監査対策に関するお問い合わせは行政書士法人シフトアップまでお気軽に。全国対応しております。
目次 点呼とは?誰が実施するのかどこで実施するのか点呼の実施方法点呼はいつ実施するのか|3種類の点呼乗務前点呼乗務前点呼のタイミング乗務後点呼乗務後点呼のタイミング乗務後点呼でドライバーが報告する事項 ... 続きを見る
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