労災(労働災害)とは、仕事や通勤が原因で労働者が怪我や病気、死亡、精神疾患を発症することをいいます。
トラック運送業は、建設業や製造業に次いで労災が多い業種です。
運送業に従事するのであれば、万が一の事態に備えて、労災が適用されるケースや給付の条件を確認しておきましょう。
具体的な事例や個人事業主のケースも取り上げるので、ぜひ参考にしてください。
トラックドライバーの労災(労働災害)の事例
陸上貨物運送事業労働災害防止協会の調査によると、2023年5月時点ですでに35名が労災事故で亡くなっています。

(画像引用元:労働災害発生状況|陸上貨物運送事業労働災害防止協会)
運送業の労災事例で多いのは、以下の3つです。
- トラックの墜落や転落事故
- 上司や先輩からのパワハラ
- 長時間労働による過労死
交通事故による労災が多いように見えますが、実は荷役作業中の墜落・転落が最も多く、長時間労働による心理的負荷や過労死の事例も報告されています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
トラックの墜落や転落事故
トラック運送業の労災事例で最も多いのが、トラックからの墜落や転落事故です。
中でも荷役作業時に発生するケースがほとんどで、死亡事例も報告されています。
(出典:陸上貨物運送事業における労働災害発生状況|厚生労働省)
段ボールを持ちながら荷台からバンパーに足をかけ、後ろ向きで下りようとしたところ足を滑らせて転落。頭を強打し、その後死亡が確認された。
テールゲートリフターに乗ってカゴ台車を荷台から降ろす際、ストッパーを使用していなかったために、約200kgの荷とともに落下して下敷きとなった。
上司や先輩からのパワハラ
トラック運送業では、不当な長時間労働、上司や先輩からのパワハラなどで、労働者が心理的負荷を抱えるケースも多いです。
冷凍食品の運送会社に勤めるAさんは、20日間に及ぶ連続勤務や2,000kmを超える運行距離、1ヶ月300時間を超える時間外労働に加えて、社内の役職をいきなり解任されるなどのパワハラを受けていた。
病院を受診した結果うつ病と診断されたため、休職することになった。
運送会社で働いていたBさんは、食事やトイレもできないほどの過剰な長時間労働や上司・同僚によるパワハラ、プライベートでの迷惑行為が重なり、自律神経失調症・不安障害を発症した。
長時間労働による過労死
長時間労働や過酷な労働環境が原因で、過労死する事例も後を絶ちません。
Cさんはトラックの長距離輸送中に脳出血を発症して死亡した。
主に一人乗務による往復運行をおこなっており、その日も東北から関西・関東方面への長距離輸送中だった。Cさんは高血圧症の既往歴があり、過剰な業務量や労働環境が血圧の急激な上昇を引き起こし、脳出血を発症した。
トラック運送業では、人手不足による労働環境の悪化が問題となっています。
新たな人材が確保できないため、在籍するドライバーが長時間労働を強いられ、過労死や心理的負荷を抱えてしまうケースも珍しくありません。
働きすぎによる過労死を防ぐために、厚生労働省では「過労死認定ライン」が定められていますが、長時間労働や時間外労働の上限がないことが当たり前の運送業界では機能していないのが現状です。
過労死認定ラインとは、長時間労働が原因で病気・死亡・自殺に至るリスクが高まる基準のことを指します。
具体的には、以下が該当します。
- 発症日の直近1ヵ月の時間外労働が100時間を超える
- 発症日前の2~6ヵ月の時間外労働が月平均で80時間を超える
2024年4月に、働き方改革の一環としてトラックドライバーの時間外労働に月960時間の上限が設けられますが、設けられたとしても上限いっぱいのため、改善への期待度は薄いでしょう。
それどころか、運転時間や労働時間の減少によって収入が減るドライバーが増え、離職などで人手不足が加速する恐れもあります。

懸念される物流業界の2024年問題とは
「2024年問題」とは、働き方改革の関連法が施行されることによって発生する物流業界の諸問題のことです。
具体的には、以下が想定されています。
- 人手不足の深刻化
- 会社全体の利益減少
- ドライバーの収入減少
労働時間が改善されることで長時間労働や過労死の減少が期待される一方、収入が減少する焦りによって、輸送・荷役作業中の事故が頻発する恐れがあります。
ここからは、運送業従事者であれば避けて通れない2024年問題について見ていきましょう。
トラックドライバーの働き方改革
通常、労働基準法32条で定められた法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合は、36協定を結ばなければなりません。
事業者と労働者の間で36協定を結べば、月45時間、年360時間まで労働者を働かせられます。さらに特別条項付きの36協定を結べば、月100時間、年720時間までの時間外労働が可能です。
多くの職種では上記の規制が設定されていますが、トラックドライバーは通常の職種とは働き方が異なるため、現状時間外労働の上限は設けられていません。
つまり、1日の拘束時間や休息期間のルールが定められてはいるものの、いくらでも残業ができる状態になっています。
2024年4月から、運送業界の働き方改革の一環として、トラックドライバーの労働時間の基準(改善基準告示)が改正されます。
以下のような拘束時間の短縮や休息期間の延長に加え、時間外労働には年960時間の上限が設けられます。
| 改正前 | 改正後 | |
| 1年の拘束時間 | 原則 3,516時間 | 原則 3,300時間 最大 3,400時間 |
| 1ヵ月の拘束時間 | 原則 293時間 最大 320時間 | 原則 284時間 最大 310時間 |
| 1日の休息時間 | 継続8時間 | 継続11時間が基本で9時間を下回らない |
| 時間外労働 | 時間の上限はない | 最大 960時間 |
(出典:トラック運転者の改善基準告示|厚生労働省)
一見すれば今までの過酷な労働時間が改善されるので、ドライバーにとってはメリットなのではないかと考える方もいるでしょう。
しかし、実は深刻な労働不足や利益減少が懸念されています。
労働不足になる可能性もある
今までは時間外労働の上限がなかったため、基本的に走れば走るほど会社の業績が上がる仕組みでした。
しかし、規制が設けられると走行時間も労働時間も減るため、運送業界全体で利益が減少する恐れがあります。
走れば走るほど収入に反映されるのはドライバーも同じです。
時間外労働の上限が定められることで収入が減る可能性もあるため、もっと稼ぎのよい仕事を求めて離職を考える方も増えるでしょう。
また、制限時間内で今までの収入を得ようと焦るあまり、輸送中や荷役作業中の事故が増え、労災に繋がる恐れもあります。

運送業が受けられる労災保険給付とは
労災保険給付とは、業務中や通勤中に何らかの労災を受けた労働者に対して支払われる給付です。
被災した労働者の社会復帰を促す目的で設けられています。
ここからは、トラックドライバーが受けられる労災保険給付を紹介します。
具体的な内容
労災保険給付には、代表的なもので以下の7種類があります。
| 補償の名称 | 具体的な内容 |
| 療養補償給付 | 労災によって生じた怪我や病気を治療する目的で支給される |
| 障害補償給付 | 労災による怪我や病気が完治せず、後遺症が残った際に支給される |
| 休業補償給付 | 労災による怪我や病気の療養が原因で、賃金が得られない場合に支給される |
| 遺族補償給付 | 労災によってドライバーが死亡した際に遺族が受け取る一時金 |
| 葬祭料 | 労災によって死亡したドライバーの葬式をおこなうための給付 |
| 傷病補償年金 | 労災による怪我や病気が1年6ヵ月経っても完治しない場合に支給される |
| 介護補償給付 | 障害補償または傷病補償を受けていて、症状が重く、介護を受けている方に支給される |
(出典:労災保険給付の概要|厚生労働省)
給付を受けるまでの流れ
労災保険給付を受けるには、労働基準監督署から労災認定を受けなければなりません。
調査の結果、労災であることが認められなかった場合、給付は受けられないので注意してください。
給付を受けるまでの流れは以下のとおりです。
- 請求書を作成し、会社を通じて労働基準監督署へ提出
- 労働基準監督署が労災の内容を調査
- 労働基準監督署から支給もしくは不支給の結果通知が届く
- 厚生労働省から指定の口座へ給付が振り込まれる
受ける給付の種類によって提出する請求書は異なります。
様式は厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。
運送業の個人事業主は対象外!対策は?
労災保険給付は、会社と雇用関係を結ぶ労働者に対して与えられるものです。
そのため、会社に属さない個人事業主は対象外となります。
しかし運送業界では、一人親方の個人事業主として働く方も多くいます(俗にいう名義貸りドライバーのこと)。
もし、業務中に怪我や病気を負って運転ができなくなってしまった場合、何かしらの補償がなければ食べていくことはできません。
そのようなときに役立つのが、「特別加入制度」です。
一定の要件を満たせば個人事業主でも労災保険へ加入できます。
特別加入制度を利用する
特別加入制度は、中小事業主・一人親方・特定作業従事者・海外派遣者など、労働者以外の方に用意された労災補償制度です。
労災の発生状況を見て保護が相応しいと判断された場合に、一定の要件を基に加入が認められます。
加入するには、各都道府県の「特別加入団体」を通じて手続きをおこなう必要があります。
特別加入団体とは、労働局長の承認を受けた個人事業主のための団体です。
各都道府県の労働局や労働基準監督署に問い合わせれば、どのような団体があるか調べてもらえます。
(参考資料:労災保険への特別加入|厚生労働省)
第三者へ請求する
労災の原因が第三者による過失だった場合は、相手に対して損害賠償請求をおこなうことも可能です。
運送業の場合、輸送中に第三者が原因で事故が起こり、個人事業主が怪我や病気を負った際に損害賠償を請求できます。
このとき、第三者が仕事で運転していた場合は、その使用者(会社)に対して、使用者責任を理由に損害賠償請求できるケースもあります。
労災隠しとは?会社が労災認定を避ける理由
筆者が勤務していたトラック運送会社もそうでしたが、労災認定を受けることを怖がって、労災をなるべく使用しない会社があります。
理由としては、労災認定を受けることで以下のようなデメリットが発生するからです。
- 保険料率が増加する
- ブラック企業のレッテルを貼られ、ブランドイメージを損ねる
- 労災認定書類の作成や調査立会義務が生じる
- 労働基準監督署の監査対象になる
そのため、労災があっても利用させない、労災の届出をしない、そもそも労災保険に加入させないなど、労災を隠ぺいしようとする「労災隠し」をおこなう企業もあります。
しかし、労災によって補償を受けることは、労働者に認められた権利です。
労災が起こった事実を隠したり、虚偽の届出をしたりした場合は、労働安全衛生法違反で書類送検され、50万円以下の罰金が科されます。
また、もし労働者に裁判を起こされた場合は、企業イメージを大きく下げる原因にもなります。
企業が労災の届出をしてくれない場合は、自身で労災の届出をおこなうことも可能です。
様式は厚生労働省のホームページからダウンロードできるので、諦めずに申請してください。
まとめ
労災は、仕事や通勤が原因で労働者が怪我や病気、死亡、精神疾患を発症することです。
会社と雇用関係を結ぶ労働者は「労災保険給付」を、個人事業主の場合は「特別加入制度」を利用することで、怪我や病気を治療するための補償を受けられます。
2024年の4月からは改善基準告示が改正され、業務効率化への焦りによって、輸送中や荷役作業中の事故が増える恐れもあります。
トラックドライバーは、労災を負ったときに正しい対応ができるよう、本記事を参考に内容を理解しておきましょう。
運送業許認可や巡回指導・監査対策に関するお問い合わせは行政書士法人シフトアップまでお気軽に。全国対応しております。

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