一般貨物自動車運送事業の標準的な運賃とは、事業を継続的におこなっていくための基準となる運賃です。
令和2年に国土交通省から発表されていましたが、令和6年の3月にあらためて告示されました。
荷主との運賃交渉に役立てるものとして定められたものの、実際に届出ている運送事業者は少ないのが現状です。
本記事では、一般貨物自動車運送事業における標準的な運賃の概要を解説していきます。
一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃とは
一般貨物自動車運送事業における標準的な運賃とは、法令を遵守して、継続的に事業をおこなっていくための基準となる運賃のことです。
トラック運送業では、長時間労働や過酷な労働環境、低賃金によるドライバー不足が深刻化しています。
加えて、令和6年4月1日から施行された時間外労働の上限規制や、トラック運送業者の荷主に対する交渉力の弱さから、必要なコストに見合った対価を収受できない事態も問題となっています。
国土交通省はこのような背景を踏まえ、ドライバーの労働条件の改善を図るために、標準的な運賃の告示制度を導入しました。
一般貨物自動車運送事業の標準的な運賃が設定された背景
一般貨物の標準的な運賃が設定された背景は以下の2つです。
- ドライバーの労働環境改善
- 時間外労働の上限規制の適用
順番に見ていきましょう。
背景①ドライバーの労働環境改善
運送業界は、他の産業に比べて労働時間が約2割長く、年間賃金が約2割少ない傾向があります。また、人手の現状としては、他の職種と比較して有効求人倍率(※)が約2倍高く、年齢構成は40代以降の高齢層の割合が多くなっています。
※有効求人倍率とは、求職者1人に対して何人分の求人があるかを示す数値のことです。有効求人倍率が高いと、企業側としては応募者がなかなか集まらない状況になります。
このことから、拘束時間の長さや賃金の低さを理由に、新たに運送業に従事しようと考える人が減ってきていることがわかります。
運送業界における深刻な人手不足は、私たちの生活に不可欠な運送サービスに既に支障をきたし始めており、さまざまなところでトラックの台数や運送時間の縮小が発生しています。
取引の適正化を図ってドライバー不足に対応していかなければ、物流は今後、確実に不安定な状態になっていくでしょう。
サプライチェーン全体に影響を与えないためにも、標準的な運賃の告示によって、取引の適正化が図られる運びとなったのです。
背景②時間外労働の上限規制の適用
令和6年の4月1日から適用された「時間外労働の上限規制」も、標準的な運賃が告示された背景の一つです。
政府は、運送業における長時間労働を是正することを目的に、時間外労働に罰則付きの上限規制を設けることを決めました。トラックドライバーに関しては、年960時間の上限規制が適用されています。
しかし、トラックドライバーは走れば走るほど稼げる職種です。時間外労働に上限規制が設けられることで賃金が下がるため、よりよい待遇を求めて、他の職種への転職を考えるドライバーが出てもおかしくありません。
運送事業者が、荷主に対して適正な運賃を提示できれば、時間外労働が規制されている中でもドライバーは十分な賃金を得られます。
このことから、適正な運賃を決める指標の一つとして、標準的な運賃が設定されることになりました。
一般貨物自動車運送事業の標準的な運賃の基本設計
標準的な運賃は以下の図のように、適正な原価(変動費+固定費)に適正な利潤を加えることで算出されます。
| 変動費 | ・走行距離に比例して発生する費用 ・1km走行あたりの変動費に走行距離を乗じる (例:運行費、トラックドライバー人件費など) |
| 固定費 | ・走行距離に関係なく発生する費用 ・1時間あたりの固定費に拘束時間を乗じる (例:車両費、自動車関連諸税、保険料など) |
+
| 利潤 | ・事業を継続的に経営していくために必要な適正な利潤 |
高速道路利用料や駐車場利用料などの割増料やその他の諸料金は、運賃とは別で収受することが想定されています。
なお、運賃表は貸切の運送を前提として、以下の方針のとおり、地方運輸局ごとに作成されています。
| (1)運賃表の基本 | 貸切運送を前提として、距離制と時間制の2つの運賃表を作成 |
| (2)地域差 | 人件費や物価の地域差を考慮し、地方運輸局別で運賃表を作成 |
| (3)車種の違い | 車格別(2t・4t・10t・20t)で運賃を設定 |

出典:全日本トラック協会「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃について」
なお、割増料やその他の諸料金は運賃とは別で収受されるため、運賃表とは別に規定されています。
一般貨物自動車運送事業の標準的な運賃の届出方法
標準的な運賃を初めて適用する場合は、営業所を管轄する運輸支局へ、運賃料金の届出をする必要があります。
一方、令和2年に告示された標準的な運賃を既に提出している事業者が、継続して同じ運賃を提出する場合には、改めて管轄の運輸支局へ運賃料金の届出をおこなう必要があるため注意しましょう。
なお、令和2年の標準的な運賃を適用済みの事業者が、令和6年に告示された運賃を適用する場合、運賃料金の届出は不要となります。
標準的な運賃の届出は義務?
標準的な運賃の届出は、義務化されていません。
告示されたものの、届出をしていない事業者が多いのが現状です。
一般貨物自動車運送事業の標準的な運賃についてよくある質問
最後に一般貨物自動車運送事業の標準的な運賃について、よくある質問に回答していきます。
Q.標準的な運賃の具体的な活用方法は?
標準的な運賃は、荷主との運賃交渉など、実際に運賃を設定する際の一つの目安として活用するのが望ましいです。
また、標準的な運賃の設定方法を踏まえて、自社の事業内容に応じた原価計算をすることによって、必要なコストに対する運賃を設定する際にも役立ちます。
Q.告示されている標準的な運賃をそのまま使用してもいい?
運賃の設定は、基本的に個々のトラック運送事業者が任意でおこなえますが、標準的な運賃を使用することが適切だと感じた場合は、そのまま適用しても問題ありません。
Q.届出した運賃と実際の運賃に相違があった場合は指導の対象になる?
届出した運賃と実際の運賃に相違があったとしても、基本的には問題ありません。
しかし、届出をおこなったものとは異なる運賃を使用する場合には、変更にかかる手続きをおこなう必要があります。
まとめ
本記事では、一般貨物自動車運送事業における標準的な運賃について解説しました。
標準的な運賃の届出は義務化されていないものの、設定しておくことで、荷主との運賃交渉に役立てることができます。
人手不足が進む運送業界では、適正な賃金設定が、人材を守るための重要な手段となります。
時間外労働の上限規制が始まった今、貴重な人材を失わないためにも、標準的な運賃を届け出ることをおすすめします。

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