「監査では何をチェックされる?」
「監査を対策する方法はないの?」
運送業を営む方のなかには、監査という言葉は知っているけれど、いまいち何をチェックされるのか、どんなタイミングで来るのかまでは把握しきれていない方が多いでしょう。
本記事ではそんな方に向けて、運送会社における監査について詳しく解説していきます。
対象となる事業者や、重点的にチェックされる項目についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
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運送会社における監査とは?
運送会社における監査は、輸送の安全が確保されているかを基準におこなわれます。
もう少し詳しく説明すると、輸送の安全を確保するために必要な業務がおこなわれているか、法令で定められている項目をしっかりと守れているかをチェックするために実施されます。
監査をおこなう目的
運送会社に対する監査は、事故を未然に防いだり、法令遵守の徹底を図ることを目的としておこなわれます。
そのため基本的には、輸送の安全確保に支障をきたす恐れのある、かつ法令に違反している疑いのある事業者から順に監査が実施されます。
例を挙げるとするならば、以下のような運送会社は特に監査の優先順位が高くなります。
- 運行管理者や整備管理者が未選任である
- ドライバーに対して点呼を実施していない
- 営業所に配置している事業用自動車の定期点検整備が未実施
監査と巡回指導の違い
監査を受けた経験がない運送会社のなかには、「監査と巡回指導は何が違うの?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。
どちらの場合も、運送会社に担当員が足を運んで営業状況を調査することに変わりはありませんが、実施されるきっかけや、調査項目に問題があった場合の処分などが大きく変わってきます。
わかりやすい違いを挙げるとするならば、調査を実施する機関が異なります。
- 監査:運輸支局の監査担当がおこなう
- 巡回指導:トラック協会の適正化事業実施機関がおこなう
監査
監査とは、運輸支局の監査担当によっておこなわれる調査です。
重大な事故を起こしたときや、巡回指導で悪質とみなされる違反が発覚したことをきっかけにおこなわれることが多いです。
また、長期間対象になっていなくても、ランダム式に監査が実施されることもあります。
監査をおこなう旨を事前に通知してくれる場合もありますが、ほとんどは通知なしで当然監査担当が営業所へ出向き、ゲリラ的におこなわれます。
また監査の種類によっては、運輸支局に呼び出されるものもあります。
監査のなかで違反が発覚した場合には、行政処分が下されます。
違反した項目によっては、事業停止や許可取り消しなどの重い処分が科される場合もあります。
巡回指導
一方で巡回指導とは、トラック協会の適正化事業実施機関がおこなう指導のことです。
実施されるタイミングはほとんど決まっていて、運送業を開始してから1ヵ月~3ヵ月以内に1回目がおこなわれるのが一般的です。
1回目の巡回指導でA判定を取ることができれば、その後2~3年に1度のペースでおこなわれるようになります。
監査は業務状況を隈なくチェックして違反があれば処分が下されますが、巡回指導はあくまでもトラック協会による指導のため、法令違反があった場合でも基本的には行政処分が下されることはありません。
しかし、「じゃあ巡回指導は怖がる必要はないんだ!」と甘く見てはいけません。
評価が著しく悪かったり(DまたはE)、悪質な法令違反があると認められたりした場合には、運輸支局へ通報されて監査の対象になってしまいます。
そのため、巡回指導でも決して気を抜かずに備える必要があります。
運輸支局が実施する監査の種類は3つ
運輸支局が実施する監査は、次の3つに分類されます。
- 特別監査
- 一般監査
- 街頭監査
特別監査
特別監査は運送会社に対して実施されるもののなかで最も厳しい監査で、重大な事故を引き起こした事業者や、悪質な違反が発覚した事業者を対象におこなわれます。
「トッカン」ともよばれており、運送業を営んでいる方には馴染みのある言葉でもあります。
また、何かしらの行政処分を受けたにも関わらず、事業改善に係わる出頭や報告を拒否した場合や、改善が確認できなかった事業者に対してもおこなわれる場合があります。
一般監査
監査をおこなうきっかけに応じた重点項目を定めて、法令が守られているかをチェックするものを一般監査といいます。
一般監査を実施した際に、さらに詳しく営業状況を確認する必要があると認められた場合には、特別監査に切り替わることもあります。
街頭監査
街頭監査とは、事業用自動車の運行状況や実態を確認するために、街頭で事業者を特定せずにおこなわれる、いわゆる抜き打ちチェックのような監査です。
基本的には、発着場などでバス事業に向けておこなわれることが多いため、一般貨物自動車運送事業者は特に気にする必要はありません。
監査の対象になる主なきっかけとは?
では、実際に何をしたら監査の対象になってしまうのでしょうか?
運送会社における監査は、以下の項目をきっかけに実施されます。
- 法令違反の疑いがある事業者
- ドライバーが死亡事故を起こしたとき
- ドライバーが悪質な違反をしたとき
- 事業への改善報告をおこなわなかった事業者
- 巡回指導を拒否した事業者
- 福利厚生が整備されていない事業者
- 最低賃金法に違反した事業者
- 3年間で3回以上同じような事故を起こした事業者
- 輸送の安全確保体制が整っていない事業者
- 受委託者に違反があったとき
上記の項目の中で、社会的に影響力の大きい事故や、特に悪質とみなされる違反をおこした事業者には「特別監査」が実施されます。
それ以外の場合には、基本的に「一般監査」がおこなわれます。
法令違反の疑いがある事業者
トラック協会による巡回指導や利用者から提供された情報をもとに、法令に違反している疑いがあるとみなされた事業者は、監査の対象になります。
ドライバーが死亡事故を起こしたとき
ドライバーが第一当事者と推定される死亡事故を起こした際にも、監査がおこなわれます。
この場合、輸送の安全が十分に確保されていないとみなされ、長時間運転を強制していないかなど、労働時間に関する項目が主にチェックされます。
ドライバーが悪質な違反をしたとき
運行するうえで以下のような悪質違反を引き起こした場合や、疑いがあるとみなされた場合にも、監査がおこなわれます。
- 救護義務違反(ひき逃げ)
- 酒酔い・酒気帯び運転
- 薬物使用運転
- 妨害運転(あおり運転)
- 無免許・無資格運転
- 過労運転
- 無車検・無保険運行
事業への改善報告をおこなわなかった事業者
行政処分を受けて事業への改善報告を指示されたにも関わらず、報告のための出頭を拒否したり、そもそも改善報告をおこなわなかったりした事業者は、監査の対象となります。
また、改善報告をおこなっていたとしても、報告内容から改善されたことが認められなかった事業者に対しても監査がおこなわれます。
巡回指導を拒否した事業者
トラック協会がおこなう巡回指導を拒否した事業者も、監査の対象となります。
福利厚生が整備されていない事業者
労働関係行政機関または日本年金機構から、以下の項目に加入していないという通報が入った事業者に対しても監査がおこなわれます。
- 労災保険
- 雇用保険
- 健康保険
- 厚生年金
最低賃金法に違反した事業者
労働関係行政機関から、最低賃金法に違反しているという通報が入った事業者にも監査が実施されます。
インターネットが普及したことによって、事業者だけでなく、ドライバーも法令の遵守項目を理解している方が増えてきています。
そのため、福利厚生や賃金に係わる法令違反がある運送会社は、ドライバーによって内部告発されやすくなっていますので、少しでも心当たりのある事業者は注意が必要です。
3年間で3回以上同じような事故を起こした事業者
事故を起こした際には、「自動車事故報告規則」で定められている様式に則って、事故の報告書を提出する義務があります。
このとき、報告書に記載する事故の「原因」と「種類区分」が同じものを3年間で3回以上起こした事業者は監査の対象となってしまうため、注意してください。
輸送の安全確保体制が整っていない事業者
事業用自動車の配置台数やドライバーの勤務時間、休憩施設の保守管理、運行管理者の選任有無などに関して違反事項があり、輸送の安全確保体制が整っていないとみなされた事業者も、監査の対象です。
また、輸送の安全確保が十分におこなわれていないことを知ったうえで仕事を依頼した元請けの事業者も違反に関与したとみなされ、同じく監査対象となる可能性があるため十分注意してください。
受委託者に違反があったとき
運行前後の点呼やアルコールチェックは、国土交通大臣による許可を得た業者に受託することが可能ですが、このとき受託した業者自体に違反事項があると判断された場合にも、監査の対象となります。
監査の実施方法
監査の実施方法は、以下の3種類です。
- 臨店による監査
- 呼び出しによる監査
- 街頭監査
一つずつ解説していきます。
臨店による監査
営業所や事業用自動車が配置されている車庫などに監査担当が直接出向いて調査を実施するものを「臨店による監査」といいます。
臨店による監査は、基本的に通知なしでおこなわれます。
ただし、通知なしでおこなうことによって支障が生じると判断された事業者には、監査の前日に通告される場合もあります。
呼び出しによる監査
事業者の代表、もしくは準ずる者、運行管理者など、事業運営に係わる責任者を運輸支局へ呼び出しておこなう監査を「呼び出しによる監査」といいます。
以下のいずれかに該当する事業者は、呼び出しによる監査の実施対象となります。
- 行政処分を受け、事業改善報告を命じられた事業者
- 確認事項が限定的であり、臨店する必要がないと判断された事業者
街頭監査
「街頭監査」とは、監査担当が事業用自動車が所在する場所へ直接出向いて実施する監査を指します。
街頭監査は、バスの発着場でおこなわれることがほとんどのため、一般貨物自動車運送事業者が対象となることはありません。
監査でチェックされる項目
運送会社に対する監査では、以下の8つの項目を重点的に実施するように、国土交通省によって定められています。
- 事業計画の遵守状況
- 運賃・料金の収受状況
- 損害賠償責任保険(共済)の加入状況
- 自家用自動車の利用、名義貸し行為の有無
- 社会保険等の加入状況
- 賃金の支払い状況
- 運行管理の実施状況
- 整備管理の実施状況
なお、監査のきっかけによってもチェックされる項目が異なるため、上記以外の項目も併せて確認される可能性もあります。
監査の対策方法とは
次に、監査の対策方法について解説していきます。
主な対策方法は以下の2つです。
- とにかく法令を遵守する
- Gマークを取得して優良企業であることを証明する
基本的には法令を遵守するしか道はない
「監査を対策する方法はありますか?」と相談をいただきますが、基本的には法令を遵守し、輸送の安全をしっかりと確保できる事業者だということを証明するしか道はありません。
運送会社における監査は、輸送を担当する事業者が法令をしっかりと守れているかチェックするために実施されます。
もし、法令を守らない事業者が溢れかえってしまった場合、重大な事故が起きたり、悪質な違反を引き起こす運送会社が続々と増え、秩序がなくなってしまいます。
そのような事態を防ぐためにも、公正に監査はおこなわれています。
監査から逃れるためには、いつ監査をされても問題ないくらい優良な運送会社になるのが一番いい方法です。
Gマークを取得している会社は優遇されるって本当?
Gマークとは、全日本トラック協会がおこなう安全性評価事業によって、一定の基準をクリアした事業所に対して認定される証のことです。
2021年の3月時点で、全国26,940もの事業所が、基準をクリアした「安全性優良事業所」に認定されています。
(出典:全日本トラック協会)
Gマークを取得している事業所=輸送の安全確保に取り組んでいるとみなされるため、監査の頻度を減らす可能性は少なからずあるでしょう。
また、Gマークを取得することで、さまざまな助成金が得られるメリットもあるため、安全への意識が高く、自信のある運送事業所は、Gマークの取得を検討してみるのがおすすめです。
まとめ
今回は、運送会社に対しておこなわれる監査について詳しく解説しました。
監査は、ドライバーが死亡事故を起こした際や、悪質な違反をおこなったとき、事業者に法令違反の疑いがあることなどをきっかけに実施されます。
国土交通省によって定められた重点項目を隈なくチェックされるので、日頃から法令遵守に気を付けていなければ、不正を隠し通すことは難しいでしょう。
弊社シフトアップでは、運輸支局監査に備えるための帳票管理、運行管理のアドバイスなどの顧問業務もおこなっています。
「運輸局の厳しい監査を乗り越えて、優良な運送会社として事業を続けていきたい」そのような方は、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。
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