トラックドライバーという仕事に対して、休みが少なかったり、長時間労働のイメージを持っていたりする方も多いのではないでしょうか。
イメージ通り、特に長距離の場合は長時間に渡って運転していることが多いです。
しかし、労働基準法で定められている法定労働時間は一般の職種と変わりないはずなのに、なぜ長時間労働ができるのかと疑問に思う方もいるでしょう。
ここでは、そのような疑問を解消するべく、運送業における労働基準法について解説していきます。概要や違反についても詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。
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運送業界における労働基準法とは
2017年に厚生労働省が実施した調査によると、運送業の平均残業時間は「84.2時間/月」と報告されています。
労働基準法が定められているはずなのに、なぜこんなにも残業をしているのかと疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
運送業の残業時間の多さは、上限規制が猶予されていることが原因として挙げられます。
以下の項で、運送業界における労働基準法について詳しく解説していきます。
一般的には1日8時間、週40時間まで
労働基準法の第32条では、労働時間について以下のように定めています。
使用者は労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて労働させてはならない。
(引用元:労働基準法 第32条)
つまり、雇用主は1日8時間、週40時間以上労働者を働かせてはいけないということです。
しかし、36協定を結んでいれば、この法定労働時間を超えて残業を命じることが可能になります。
36協定を結んでいれば労働時間の延長が可能
36協定とは、雇用主が労働者に対して取り結ぶ労使協定のことで、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合に必要になります。
雇用主と労働者の間で36協定を結んでいれば、残業時間を1か月45時間・1年で360時間まで延長することが可能になります。
また、それ以上の残業を依頼するためには、特別条項の付いた36協定を結ぶ必要があります。
特別条項付きの36協定では、年720時間まで残業時間を延長することが可能です。
運送業界では労働時間の上限規制がないのが現状
ただし、上記の労働時間が適用となるのは一部の業界業種のみで、運送業や建設業、医師などは年720時間の残業時間上限規制を超えて労働させることができる「猶予期間」が適用されています。(※2024年3月31日までの猶予期間中に限る)
つまり、猶予期間が適用されている業界業種では、36協定を結びさえすれば上限に阻まれることなく時間外労働ができます。
以下が、36協定による上限規制が猶予されている業界業種です。
- 運送業(ドライバーに限る)
- 建設業(建設や修理、解体などの業務に限る)
- 医師(医療事務、看護師、歯科技師、薬剤師は対象外)
- ⿅児島県や沖縄県の砂糖製造業
拘束時間と休日
運送業における拘束時間と休日は、改善基準告示によって以下のように定められています。
- 1日の拘束時間は原則として13時間
- 4時間運転するごとに休憩が必要
- 休日は最低でも32時間以上
1日の拘束時間は13時間までが基準
拘束時間とは、労働時間(残業も含む)と休憩時間を合わせた時間のことをいいます。
ドライバーは運転している時間以外にも、休憩や荷待ち時間などで他の業種よりも拘束される時間が長いため、特別に定められています。
1日の拘束時間は原則として13時間まで、超過する場合は最大16時間まで可能です。
ただし、15時間を超えて良いのは1週間に2回までと定められています。
1か月の拘束時間は293時間までとされていますが、こちらも1年間に6か月までであれば、最大320時間まで延長することが可能です。
最終的には、1年間の拘束時間が3,516時間以内であればとくに問題はありません。
荷待ち時間も拘束時間に含まれる
荷待ち時間とは、荷主の都合によって待機せざるを得ない時間のことで、荷物の積み下ろしや指示待ちの時間などが主に含まれています。
運送業においては、荷待ち時間も拘束時間に含めなければいけません。
荷物がいつトラックに運ばれて実際に運送ができるようになるのか具体的な時間が分からなければ、ドライバーはその時間を自由に使えなくなります。
そのため、荷待ち時間も拘束時間としてカウントしなけれいけないのです。
4時間運転するごとに休憩が必要
ドライバーは4時間連続で運転するごとに、必ず30分以上の休憩をはさまなければなりません。
例外として、連続した30分の休憩をとれない場合は、1回10分以上の休憩を、合計して30分以上とれば良いとされています。
4時間運転→30分休憩→4時間運転→30分休憩
1時間運転→10分休憩→1時間運転→10分休憩→1時間運転→10分休憩
休日は32時間以上必要
運送業における休日の定義は、「休息時間+24時間」です。
休息時間は最低でも8時間以上とることが定められているため、次の業務を開始するまでに最低でも32時間以上が必要になります。
改善基準告示の改正が2024年4月におこなわれる
2024年4月以降、ドライバーの「改善基準告示」が改正されます。
これによってさまざまな基準が見直され、今までよりも働きやすい環境になることが期待されています。
改正される項目は、以下の4つです。
- 拘束時間
- 休息期間
- 運転時間
- 連続運転時間
改正後の拘束時間
今まで、ドライバーの拘束時間は原則として1日13時間、最大16時間でしたが、改正後は15時間が上限となり、やむを得ず14時間を超えてしまう場合は週2回までなら認められます。
1か月だと284時間、最大でも年6か月まで310時間に延長可能で、1年の場合は3,300時間、労使協定を結んでいれば最大3,400時間まで延長できます。
ただし例外もあり、宿泊を伴う長距離運送に関しては、従来通り16時間まで延長することが可能です(週2回まで)。
改正後の休息期間
休息期間に関しても、基準が見直されます。
これまでは、8時間以上とれていれば問題ありませんでしたが、改正後は継続11時間以上が基本となり、9時間を下回ると違反の対象になります。
ただし、宿泊を伴う長距離運送の場合に限っては、週2回まで8時間以上の休息期間でよいとされています。
また、休息期間が9時間を下回った際には、その日の運行が終了したあとに12時間以上の休息を別途とる必要があります。
運転時間
運転時間に関しては、とくに改正される箇所はありません。
今まで通り、2日間の平均が9時間以内、2週間の平均が44時間以内であれば問題ありません。
改正後の連続運転時間と休憩
連続運転時間は従来通り、最大4時間から変更はありません。
しかし例外で、SAやPAに駐停車できない際に、やむを得ず連続の運転時間が4時間を超える場合は、4時間30分まで延長できます。
なお、運転の中断理由に関しては改正が入ります。
改正前に運転を中断する際は、作業や休憩など、運転をしない時間であれば内容は何でも認められていたのに対し、改正後は休憩でなければ中断が認められなくなりました。
また、10分未満の短い運転の中断をおこなう際は、3回以上連続しないように努めなければなりません。
2024年改正の改善基準告示を解説!いつ/拘束時間/休憩時間/罰則etc
時間外労働については年960時間の上限が適用される
改善基準告示の改正と同じ年に、時間外労働に上限が設けられます。
従来まで、時間外労働の上限規制は適用されておらず、猶予期間という扱いになっていました。
しかし2024年の4月からは、雇用主と労働者の間で「特別条項付きの36協定」を結んだ場合に、時間外労働の上限が年間960時間までに制限されます。
時間外労働の上限規制で労働環境が改善される一方で、稼働時間の減少により事業者全体の利益やドライバーの収入が大きく落ちてしまう恐れもあります。
運送業界ではこれを「2024年問題」とよんでいます。
収入が低いとなれば、現在努めているドライバーの離職はもちろん、業界に新たに転職してくる人がいなくなることにも繋がります。
運送業界では、2024年問題によってさらなる人手不足が起こるとも懸念されています。
これって労働基準法違反?よくある2つのケースを紹介
次に、運送業の労働基準違反でよくある2つのケースを紹介します。
- 残業代が支払われていない
- 長時間労働を強いられている
①残業代が支払われていない
1つ目は、残業代が支払われていないケースです。
労働基準法第37条によると、労働時間を延長させたり休日出勤をさせたりした場合には、雇用主は労働者に残業代を支払わなければならない決まりになっています。
しかし、歩合制やみなし残業代込など、会社の給与形態によって基準が異なる場合もあるため、残業代が支払われていないと思ったら一度労働基準監督署や社労士に相談してみるといいでしょう。
②長時間労働を強いられている
法律で定められている休息時間や休日を与えられず、長時間労働を強いられている場合も、労働基準法に違反しているといえます。
休日が32時間以下だったり、運転時間が規定を大幅に超えたりする場合は、労働基準監督署や社労士に相談してみるのがおすすめです。
労働基準法に違反した際の罰則
最後に、労働基準法に違反した際に科される罰則を紹介します。
罰則の内容は違反した項目によって異なりますが、ここでは3つの法令違反例に対する罰則を紹介していきます。
違反の主な例 | 罰則の内容 |
長時間労働 | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
残業代の未払い | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
強制労働 | 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金 |
運送業の法令違反で最も多い項目は、「ドライバーの長時間労働」です。
法律で定められている休息時間や休日が与えられないなど、長時間労働があると認められた場合、雇用主に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
また、2つ目に多い項目である「残業代の未払い」についても同様の罰則が科されます。
最も重い罰則としては、「強制労働」が該当します。
雇用主が労働者に対して暴行や脅迫などをおこなって労働を強制した場合には、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金という最も重い罰則が科されます。
まとめ
本記事では、運送業における労働基準法について解説しました。
法定労働時間や36協定の猶予期間が適用されているということもあり、ドライバーの労働時間は他の業種と比較しても多いのが現状です。
しかし、改善基準告示の改正や、時間外労働制限の設置をおこない、ドライバーの労働環境を改善する取り組みが2024年の4月に控えています。
これによって労働時間や環境の改善がおこなわれ、業界がホワイト化していく一方で、稼働時間の低下による収入の減少によって、さらなる人手不足も懸念されています。
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