トラックドライバーの仕事に対して、休みが少なかったり、長時間労働のイメージを持っていたりする方も多いのではないでしょうか。
イメージ通り、特に長距離の場合は長時間に渡って運転していることが多いです。
しかし、労働基準法で定められている法定労働時間は一般の職種と変わりないはずなのに、なぜ長時間労働ができるのかと疑問に思う方もいるでしょう。
ここでは、そのような疑問を解消するべく、2024年4月の法改正(年960時間規制・新改善基準告示)が完全適用され、労務管理が劇的に厳格化された現在の運送業における労働基準法と、経営者が絶対に守るべき実務ルールについて徹底解説していきます。
概要や違反時の重大なペナルティについても詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。
運送業界における労働基準法とは
過去の厚生労働省による調査からも分かる通り、運送業の平均残業時間は他業種と比較して突出して長いことが業界全体の大きな課題となってきました。
労働基準法が定められているはずなのに、なぜこれほどまでの長時間労働が行われていたのでしょうか。
それは、運送業のドライバー職に対して、法律上の残業時間の上限規制の適用が長年にわたり「猶予」されていたことが大きな原因でした。
しかし、その猶予期間は2024年3月末をもって完全に終了しています。2026年現在の運送業界では、一般企業と同様に厳格な上限規制が敷かれており、違反すれば即座に処罰される時代に突入しています。
以下の項で、現在の運送業界における労働基準法の基礎知識について詳しく解説していきます。
一般的には1日8時間、週40時間まで
労働基準法の第32条では、労働時間について以下のように定めています。
使用者は労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて労働させてはならない。
(引用元:労働基準法 第32条)
つまり、雇用主は1日8時間、週40時間以上労働者を働かせてはいけないということです。
しかし、36協定を結んでいれば、この法定労働時間を超えて残業を命じることが可能になります。
36協定を結んでいれば労働時間の延長が可能
36協定とは、雇用主が労働者に対して取り結ぶ労使協定のことで、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合に必要になります。
雇用主と労働者の間で36協定を結んでいれば、残業時間を1か月45時間・1年で360時間まで延長することが可能になります。
また、それ以上の残業を依頼するためには、特別条項の付いた36協定を結ぶ必要があります。
一般の職種では、この特別条項付きの36協定を結んだ場合でも、時間外労働は年720時間以内、かつ休日労働を含めて「月100時間未満」「2〜6ヶ月平均80時間以内」という極めて厳しい網がかけられています。
運送業界における労働時間上限規制の現在の実態
運送業(トラックドライバー)においては、2024年4月以降、雇用主と労働者の間で「特別条項付きの36協定」を締結した場合の時間外労働の上限が「年間960時間」と定められ、完全義務化されています。
かつてのような「上限なしの猶予期間」はすでに過去のものとなっており、この年960時間という枠組みを1分でも超過した場合は、たとえ労使の合意があっても一発で労働基準法違反の罪に問われます。
なお、上限規制の対象となる主な猶予明け業種は以下の通りでしたが、現在はいずれの業界もそれぞれの新基準に完全に移行しています。
- 運送業(ドライバーに限る)
- 建設業
- 医師
- 鹿児島県や沖縄県の砂糖製造業
拘束時間と休日
運送業における拘束時間と休日は、完全施行された「新・改善基準告示」によって以下のように厳格に定められています。
- 1日の拘束時間は原則として13時間、最大15時間まで(14時間超は週2回まで)
- 4時間運転するごとに、1回10分以上の「休憩」が合計30分以上必要
- 休日は原則として「最低35時間以上」(休息期間11時間+24時間)が必要
1日の拘束時間は13時間までが基準
拘束時間とは、労働時間(残業も含む)と休憩時間を合わせた時間のことをいいます。
ドライバーは運転している時間以外にも、休憩や荷待ち時間などで他の業種よりも拘束される時間が長いため、特別に定められています。
現在の基準では、1日の拘束時間は原則として13時間まで、やむを得ず超過する場合でも「最大15時間」が絶対的な上限となっています。これを超えて良いのは1週間に2回までであり、以前の旧基準(最大16時間)の感覚で運行を組んでいると、即座に法違反として処分されるため極めて危険です。
また、1か月の拘束時間は原則284時間まで(労使協定がある場合は最大310時間まで)に短縮されており、1年間の総拘束時間は原則3,300時間(特例でも最大3,400時間)以内でなければなりません。旧基準(年3,516時間)よりも大幅に労働枠が狭まっている点に注意してください。
荷待ち時間も拘束時間に含まれる
荷待ち時間とは、荷主の都合によって待機せざるを得ない時間のことで、荷物の積み下ろしや指示待ちの時間などが主に含まれています。
運送業においては、荷待ち時間も拘束時間に含めなければいけません。
荷物がいつトラックに運ばれて実際に運送ができるようになるのか具体的な時間が分からなければ、ドライバーはその時間を自由に使えなくなります。
そのため、荷待ち時間も拘束時間としてカウントしなければいけないのです。2025年4月に施行された「改正物流効率化法」でも荷待ち時間の削減が荷主・運送会社双方に義務付けられており、デジタコ等での立証体制の整備が必須となっています。
4時間運転するごとに休憩が必要
ドライバーは4時間連続で運転するごとに、必ず30分以上の休憩をはさまなければなりません。
ここで実務上最も注意しなければならないのは、運転の中断理由が「休憩(ドライバーが完全に労働から解放されている時間)」でなければ認められないという点です。旧ルールのようについでに「荷下ろし作業」や「荷造り、帳票記入」を行った時間は、運転は止まっていても『休憩』とはみなされず、一発で連続運転違反(過労運転)として摘発されます。
例外として、連続した30分の休憩をとれない場合は、「1回10分以上」の休憩を、4時間以内に合計して30分以上とれば良いとされています(10分未満の細切れの中断は、休憩時間としてカウントされません)。
4時間運転→30分休憩→4時間運転→30分休憩
1時間運転→10分休憩→1時間運転→10分休憩→1時間運転→10分休憩
休日は35時間以上(原則)必要
運送業における休日の定義は、「休息期間+24時間」です。
新基準の告示により、勤務終了後の「休息期間」は従来の8時間から『継続11時間以上を基本とし、いかなる場合も9時間を下回ってはならない』と大幅に強化されました。これに伴い、運送業における「休日」の最低時間も、従来の32時間から【原則35時間以上(最低でも9時間+24時間=33時間以上)】へと拡大しています。この時間を下回る休日設定はすべて労働基準法および改善基準告示違反となります。

完全施行された新・改善基準告示に準拠した運行管理を
2024年4月より完全施行されている新しい改善基準告示(いわゆる2024年問題にともなう法改正)により、トラック運送業界の労務管理の常識は180度変わりました。
これによって拘束時間の短縮や休息期間の拡大が義務化され、ドライバーの労働環境のホワイト化が強制的に進められています。
経営者や運行管理者が現行ルートで確実に厳守しなければならない主要項目は、以下の4つです。
- 拘束時間
- 休息期間
- 運転時間
- 連続運転時間
改正後の拘束時間(現行ルール)
現在のルールでは、1日の拘束時間は原則13時間、最大15時間まで(14時間超は週2回まで)に制限されています。
1か月だと原則284時間、最大でも年6か月まで310時間に延長可能で、1年の場合は3,300時間、労使協定を結んでいれば最大3,400時間まで延長できます。
ただし例外もあり、宿泊を伴う長距離運送に関しては、特例として16時間まで延長することが可能です(週2回まで)。
改正後の休息期間(現行ルール)
休息期間に関しても、基準が非常に厳しくなっています。
現在は継続11時間以上の確保が基本(努力義務)であり、最低でも「9時間」を下回ると即座に違反の対象になります。
ただし、宿泊を伴う長距離運送の場合に限っては、週2回まで8時間以上の休息期間でよいとされる特例があります。また、休息期間が9時間を下回った(特例の8時間等の)際には、その日の運行が終了したあとに12時間以上の休息を別途とる必要があります。
運転時間
運転時間に関しては、2日間の平均が9時間以内、2週間の平均が44時間以内であれば問題ありません。
改正後の連続運転時間と休憩(現行ルール)
連続運転時間は最大4時間から変更はありません。しかし例外で、SAやPAに駐停車できない際に、やむを得ず連続の運転時間が4時間を超える場合は、4時間30分まで延長できます。
なお、前述の通り、運転を中断する時間は「休憩」でなければならず、10分未満の細切れ休憩を挟む場合は「3回以上連続しない」ように指導・管理する必要があります。
2024年改正の改善基準告示を解説!いつ/拘束時間/休憩時間/罰則etc
時間外労働については年960時間の上限が適用中
運送業界において、特別条項付きの36協定を締結した場合の時間外労働(残業時間)の上限は、現在「年間960時間」までに厳格に制限されています。
この上限規制(2024年問題)への適合は、事業者全体の利益の確保やドライバーの収入維持とどのように両立させるかという、業界共通の大きな経営課題となっています。
適正な運賃交渉や業務効率化(物流DX)が進まないまま労働時間だけが削られると、ドライバーの離職やさらなる人手不足を引き起こす原因となります。だからこそ、現在の運送会社経営においては、法令を100%遵守したクリーンな労務管理体制を構築し、運輸局の監査や適性化機関の巡回指導で「行政処分を受けない強い社内基盤」を作ることが、本当の勝ち組になるための必須条件です。
トラック運送業の2024年問題・労働時間規制について対策したい方は「2024年改正の改善基準告示を解説!いつ/拘束時間/休憩時間/罰則etc」をご覧ください。

これって労働基準法違反?よくある2つのケースを紹介
次に、運送業の労働基準違反でよくある2つのケースを紹介します。
- 残業代が支払われていない
- 長時間労働を強いられている
①残業代が支払われていない
1つ目は、残業代が支払われていないケースです。
労働基準法第37条によると、労働時間を延長させたり休日出勤をさせたりした場合には、雇用主は労働者に残業代を支払わなければならない決まりになっています。
また、中小企業も含め、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率一律50%以上の引き上げルールも完全に義務化され、定着しています。歩合制やみなし残業代制を採用している会社であっても、実際の運行記録(デジタコやタコグラフ等)から計算した残業代が手当の額を上回っている場合は未払い残業代が発生します。未払いのリスクを放置していると、後に数年分の巨額の未払い請求トラブルに発展するため、一度プロへ相談し賃金規程を見直すことを強くおすすめします。
②長時間労働を強いられている
法律で定められている休息期間や休日を与えられず、長時間労働を強いられている場合も、労働基準法や改善基準告示に違反しているといえます。
現行ルールである「年960時間」の超過や、1日の拘束時間15時間超、休息期間9時間未満の運行が常態化している場合、運輸局や労働基準監督署の厳しい監査対象となります。自社の配車スケジュールや日報の管理体制に不安がある場合は、早急に専門家へ相談のうえ、運行体制の是正に着手してください。
労働基準法に違反した際の罰則
最後に、労働基準法に違反した際に科される罰則を紹介します。
罰則の内容は違反した項目によって異なりますが、ここでは3つの法令違反例に対する罰則を紹介していきます。
| 違反の主な例 | 罰則の内容 |
| 長時間労働 | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 残業代の未払い | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 強制労働 | 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金 |
運送業の法令違反で最も多い項目は、「ドライバーの長時間労働」です。
法律で定められている時間外労働の上限規制を超えたり、適切な休息時間や休日が与えられないなど、労働基準法違反があると認められた場合、雇用主に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、2つ目に多い項目である「残業代の未払い」についても同様の罰則が科されます。
さらに、運輸局による監査での処分基準も劇的に強化されています。過労運転(労働時間違反)に対する処分件数の上限枠は撤廃され、未遵守の件数だけ車両停止日数が「青天井」に累積する仕組みに変わったため、ずさんな労務管理は一発で「会社倒産(全車事業停止など)」を招く致命的なリスクとなっています。
最も重い罰則としては、「強制労働」が該当します。雇用主が労働者に対して暴行や脅迫などをおこなって労働を強制した場合には、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金という最も重い罰則が科されます。
まとめ
本記事では、運送業における労働基準法と改善基準告示の最新実務について解説しました。
2024年4月以降、時間外労働の「年960時間上限」や「新・改善基準告示」は完全に義務化され、現在の運送会社経営においては1分1秒の労務管理のズレも許されない極めて厳しい基準が適用されています。
これによって労働環境のクリーン化が進む一方で、ずさんな古い管理を続けている事業者への包囲網は日を追うごとに強まっています。違反発覚による青天井の車両停止処分や未払い残業代請求から自社を守り、ホワイトな優良企業として生き残るためには、一刻も早い労務・運行管理帳票のプロによる総点検が必要です。
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