傭車とは、自社の貨物を他社に運んでもらうことを意味し、仕事が多くなる繫忙期によく利用されています。
繁忙期に人手が足りなくなるトラック運送会社のなかには
「傭車のメリットやデメリットが知りたい」
と思っている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そんな方に向けて傭車とはどのようなものなのか紹介していきます。
概要や違法性はあるのかなども併せて解説していますので、これから傭車を利用するか迷っているトラック運送事業者は、ぜひ参考にしてみてください。
傭車とは
傭車とは、傭兵+車=傭車から生まれた運送業界の造語で、自社の代わりに貨物輸送をおこなってくれる運営会社(外注先)のことを指します。
つまり、傭車を利用する=貨物輸送を外注先に代行してもらうということです。
傭車の手配は、自社がおこなう場合もあれば、貨物運送利用事業者がおこなう場合もあります。
傭車を利用するのは繁忙期が多いイメージですが、実は日常的にも利用されています。
主な利用タイミングとしては、自社のトラックが出払っているときに荷主から配送の依頼が入ったときなどが多いです。
傭車を依頼する理由
そもそも自社でも輸送できる場合があるのに、なぜ傭車を依頼するのでしょうか。主な理由は次の通りです。
- 車両と人員を増やす資金的余裕がない
- ドライバーが辞めた穴を埋めるため
- 人手不足でドライバーを採用できないが仕事はある
- 仕事は多くあるが車両を増やすほどでもない
- 車両はあっても運賃がよくないため自社で走りたくない
1つ目から4つ目は、単純に人手が足りないからという理由で傭車を利用するケースです。
問題なのが5つ目のケースで、運賃が安い仕事を自社で請け負うと利益が薄いため傭車を依頼し、他の会社に代行してもらいます。
このケースの場合、傭車の仕事は3次請けや4次請けになってしまうことが多々あります。
A社が輸送の仕事を荷主から受ける
↓
A社では運べないためB社へ輸送を依頼する(1次請け)
↓
B社は仕事を受けたが、運賃が安くて走りたくなかったため
さらにC社へ輸送を依頼する(2次請け)
↓
C社が傭車として最終的に仕事を請負う
この場合、C社に支払われる運賃はA社とB社の両方から手数料(利用運賃)を引かれたものになるため、赤字になってしまう場合もあります。
傭車の仕事は、上記のように下請けの会社に出されることが多いため、運賃が赤字になってしまうことは珍しいことではありません。
傭車を利用するメリット
傭車を利用するメリットは以下の3つです。
- 人件費や固定費を削減できる
- 緊急時でもすぐに対応できる
- 仕事の幅が広がる場合も
一つずつ解説していきます。
人件費や固定費を削減できる
1つ目のメリットは、人件費や固定費を削減できるという点です。
人手が足りないからといって自社の従業員を新たに雇用すると、毎月の給料や社会保険料などがかかってしまいます。
また、車両を増やそうと思っても、購入費をはじめ維持費や保険料など、莫大な資金が必要になります。
それに引き替え傭車は、人件費はもちろん車両の維持費や自動車税もかかりません。傭車を依頼する際の電話代がかかるくらいで、手数料を得ることもできるため、依頼側は得しかありません。
緊急時でもすぐに対応できる
自社のドライバーや車両が出払っているときに急な案件が入ってしまった場合でも、傭車を利用すればすぐに対応できます。
傭車を利用しなくても、自社のドライバーや車両を増やせばいいのでは?と考える方も多いと思いますが、繁忙期のみ人手が足りない運送会社でその対応をすると、通常時に戻ったときに人手が余ってしまうおそれがあります。
傭車の場合は、通常時はもちろん、人手が足りない繁忙期にもスポットで利用することが可能です。
仕事の幅が広がる可能性も
傭車を依頼することで、仕事の幅が広がる可能性もあります。
傭車を依頼した運送会社との繋がりから新しい仕事が舞い込んだり、自社では対応できなかった貨物の運送もできるようになったりなど、仕事の幅が広がっていくケースもあります。
傭車を利用するデメリット
一方で、デメリットも存在します。
- 貨物輸送するのは他社のドライバーのため管理や教育が難しい
- 事故が起きた場合は傭車の手配側が責任に問われることも
こちらも一つずつ解説していきます。
貨物輸送するのは他社ドライバーのため管理や教育が難しい
傭車を利用する際には、自社のルールが浸透しないというリスクがあることを十分に理解しておくことが重要です。
傭車では、貨物を運ぶのは他社のドライバーになります。仕事の進め方や意識、業務上のルールなどはもちろん異なります。
そのため、依頼した会社によっては「対応が悪い」「運び方が丁寧ではなかった」などのクレームに繋がるおそれもあります。
事故が起きた場合は傭車の手配側が責任に問われることも
万が一、傭車を担当した他社の社員が何らかのトラブルを起こした際には、手配側が責任を負う場合もあります。
傭車側の不注意で事故が起きた場合は、輸送を担当した傭車が責任をとることがほとんどですが、傭車を手配したことによって業界内での信用度が低下して次の仕事に悪影響を及ぼしたり、傭車との信頼関係が崩れてしまったりするなど、さまざまな弊害が起こるおそれもあります。
そのため、あらかじめ外部の業者との信頼関係を築いておくことはもちろん、注意してほしいことがある場合は事前に伝えておくことが大切です。
傭車を利用することは違法?
結論をいうと、傭車を利用すること自体は違法ではありません。
ただし、傭車を利用するためには「利用運送」の登録または許可が必要になります。
意外と知られていないのですが、利用運送の登録をしないまま他社に傭車を依頼してしまい、違法となってしまった業者も少なくありません。
当社シフトアップにも、荷主に指摘を受けて初めて気づいたという方から利用運送登録の依頼を受けることがよくあります。
以下で、利用運送について深堀りしていきます。
傭車を依頼するためには利用運送の登録が必要
他社に傭車を依頼するためには、貨物利用運送事業の登録または許可が必要になります。
許可を得るには、貨物利用運送事業法に基づく申請書を作成し、国土交通大臣宛(申請窓口は運輸局)に申請書類を提出する必要があります。
書類の提出から認可が下りるまで、3か月から4か月ほどかかります。
貨物利用運送事業とは
貨物利用運送事業とは、荷主から預かった貨物の輸送を自社以外の業者に委託する事業です。
利用運送事業ともよばれており、次の2種類に分類されます。
- 第一種貨物利用運送事業
- 第二種貨物利用運送事業
第一種貨物利用運送事業は、拠点間の運送だけをおこないます。
利用をはじめるには国土交通大臣から登録を受ける必要があります。
一方、第二種貨物利用運送事業は、拠点間の輸送に加えて集荷や配送もおこないます。利用をはじめるには国土交通大臣から許可を得る必要があります。
区分 | 内容 | 例 |
第一種貨物 利用運送事業 |
流通における一部の輸送手段のみを手配する | A社の商品を、A社からB店に運ぶまでのトラックを手配する |
第二種貨物 利用運送事業 |
出発地から最終目的地までのすべての輸送手段を手配する | 国内の工場から海外の工場まで貨物を運ぶ際に、国内トラック業者・貨物船・海外トラック業者など、配送に係わるすべての輸送手段を手配する |
貨物利用運送事業については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
第二種貨物利用運送と第一種貨物利用運送の違いをスッキリ解消
未登録のまま傭車を利用した場合は違法
貨物利用運送事業の登録または許可が下りていないまま傭車を依頼してしまった場合、運送業に関する「事業計画変更認可または登録違反」に該当します。
事業停止や登録・許可の取り消しなど、重い行政処分の対象となるため、十分注意してください。
まとめ
傭車には、固定費を削減できるなどのメリットがある一方で、管理や教育が難しく、自社のルールが浸透しづらいなどのデメリットもあります。
また、傭車を依頼する際には、貨物利用運送事業の登録または許可を得ていないと、重い行政処分が下されるおそれがあります。
傭車を利用する際は、メリット、デメリットを理解したうえで、貨物利用運送事業の認可を得てから始めましょう。
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