運行管理者の確保は、多くの運送会社にとって年々頭の痛い問題になっています。
特に複数の営業所を抱える会社では、拠点ごとに専任の運行管理者を配置し、乗務前後の点呼を欠かさず行わなければならず、人手不足の中でその体制を維持すること自体が経営課題になっているのではないでしょうか。
こうした状況を受けて国土交通省が段階的に運用を広げてきたのが「遠隔点呼」であり、その最新形が「事業者間遠隔点呼」です。
資本関係のない別会社にも点呼業務を委託できるこの制度について、実務上のポイントを整理します。
点呼の原則とその歴史 ― 対面点呼から事業者間遠隔点呼へ
貨物自動車運送事業輸送安全規則では、乗務前後の点呼は運行管理者等が運転者と対面で行うことが原則とされてきました。
これは酒気帯びの有無や疾病・疲労・睡眠不足の状況などを、直接顔を合わせて確認する必要があるという安全上の要請によるものです。
しかし対面が困難な場合の例外として、平成期にIT点呼(同一事業者内の営業所間)、令和4年4月からは「遠隔点呼」(カメラ・モニター等を用いた同一事業者内での点呼)が順次認められるようになりました。
そして令和5年11月から先行実施が始まり、令和7年から本格運用に移行したのが「事業者間遠隔点呼」です。最大の特徴は、これまでの「同一事業者内」という枠を超え、資本関係を問わず別会社同士でも点呼業務を委託し合えるようになった点にあります。
グループ会社はもちろん、資本関係が一切ない協力会社同士でも制度上は活用できるとされており、地方の営業所や小規模拠点における運行管理者不足への対応策として注目されています。
どんな会社でも使えるわけではない ― 見落としがちな2つの条件
「資本関係がなくても良い」という点だけが強調されがちですが、実務上つまずきやすいのはむしろ次の2点です。
1. 事業区分が一致していること
事業者間遠隔点呼は、一般貨物自動車運送事業者同士、一般旅客自動車運送事業者(バス・タクシー)同士など、同一の事業区分内でのみ認められています。
貨物事業者が旅客事業者に点呼を委託する、といった業種をまたいだ委託は認められていません。緑ナンバーの事業であれば何でも組み合わせられるわけではない、という点は依頼を検討する経営者が意外と誤解しやすい部分です。
2. 許可は「営業所単位」で下りる
もう一つ見落とされがちなのが、管理の受委託許可があくまで点呼を行う営業所ごとに与えられるという点です。本社が過去に許可を取得していたとしても、それをもって全営業所で事業者間遠隔点呼が使えるわけではありません。
新たに対象としたい営業所がある場合は、その都度、営業所単位での許可取得手続きが必要になります。
導入までの実務フロー ― 審査でつまずきやすいポイント
事業者間遠隔点呼を開始するには、運輸支局等を経由した「管理の受委託許可」の取得が必要です。主な提出書類は管理受委託許可申請書、委託事業者と受託事業者が締結した受委託契約書の写し、そして管理報酬や実施方法の細目を記載した書面の3点とされています。
許可の有効期間は最長5年とされ、期間満了時には更新の手続きが必要です。
審査で重視される実務ポイントとして、以下が挙げられます。
- 点呼を行う機器が、国土交通省の認定を受けたものであること(映像・音声により運転者の顔色、酒気帯びの有無、疾病・疲労・睡眠不足等の状況を確認できる仕様が求められます)
- 委託事業者・受託事業者それぞれの役割と、点呼記録の作成・保存責任の所在が契約書上明確になっていること
- 異常が確認された場合の連絡体制や、緊急時に運行を中止する権限の所在があらかじめ整理されていること
行政書士として申請支援に携わる立場から付け加えると、審査官が特に目を通すのは「点呼を他社に任せても、安全運行に対する最終的な責任は自社(委託事業者)に残る」という前提が、契約書や申請書類の記載から読み取れるかどうかです。
委託さえすれば自社の管理義務が軽くなる、という誤解を前提に書類を整えると、内容の整合性を指摘され差し戻しにつながることがあります。
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メリットとコスト感 ― 導入前に整理しておきたいこと
事業者間遠隔点呼を活用する最大のメリットは、運行管理者を新規採用・配置しなくても、既に運行管理体制が整った協力会社に点呼業務を任せられる点です。
特に人員確保が難しい地方拠点や、小規模な営業所を複数抱える会社にとっては、2024年問題以降の人手不足対策の一つとして選択肢になり得ます。認定機器の中には月額数万円程度から利用できるシステムもあり、全日本トラック協会による中小事業者向けの導入費用補助事業が実施された年度もあるため、コスト面でも検討の余地があります。
一方で、委託先の点呼品質がそのまま自社の安全性に直結するという構造上、委託先選定は慎重に行う必要があります。
点呼記録簿の保存義務や巡回指導・監査時の説明責任は委託後も委託事業者側に残るため、「委託した以上は任せきりで良い」という運用は避けるべきとされています。定期的な記録の確認体制を自社側にも残しておくことが、実務上は望ましいと考えられます。
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行政書士法人シフトアップは、愛知県名古屋市を拠点に一般貨物自動車運送事業の新規許可から、営業所の新設・移転、そして日々の運行管理体制の構築まで、運送業の許認可全般を専門に扱っています。
代表の川合はトラック運送会社に12年間勤務した経験を持ち、現場の実情を踏まえた実務目線での助言を行っており、年間430件を超える相談実績があります。
事業者間遠隔点呼のように制度が新しく、運輸支局ごとに審査の運用に細かな違いが生じやすい手続きについては、申請書類の整え方だけでなく、委託契約書における責任分界の明確化まで含めた総合的なサポートが可能です。
依頼者の4件に1件は他の行政書士事務所からの乗り換えであり、愛知・岐阜・三重の東海三県を中心に全国対応しています。
まとめ
事業者間遠隔点呼は、資本関係のない会社同士でも点呼業務を委託し合えるという点で、運行管理体制の効率化に道を開く制度です。ただし、事業区分の一致や営業所単位での許可取得、委託後も残る自社の安全確保責任など、実務上押さえておくべき条件は少なくありません。
導入を検討する際は、自社の営業所配置や委託候補先の状況を踏まえたうえで、書類の整備を進めることが重要です。個別の許可の可否や進め方については、専門家への確認をおすすめします。
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参考文献
- 対面点呼に代わる遠隔点呼が実施できるようになります(国土交通省)
- 国土交通省認定の機器・システムを用いた点呼制度に関する資料(国土交通省)
- 事業者間の遠隔点呼の先行実施要領について(全日本トラック協会)
- 遠隔点呼実施要領について(全日本トラック協会)
- 別添1 事業者間遠隔点呼に係る業務の管理受委託許可申請書(全日本トラック協会)
- 令和6年度 過労運転防止認定機器一覧(国土交通省)
- 事業者間遠隔点呼のQ&Aまとめ/2025年の制度対応に必要な基礎知識と実務対応がわかる!(トラックメイトのタイガー)
- 点呼の受委託可能に、カギは事前協議と責任の明確化(LOGISTICS TODAY)
- 「遠隔点呼」とは? 令和5年4月から変更された遠隔点呼の申請ルールを解説(テレ西)
