運送業を始める手段として、運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)というものが存在します。
聞いたことがあるという方も多いでしょうが、ネット上や周りの運送事業者様から仕入れる情報だけでは理解しがたいことと思います。
そこで、この記事では専門家が運送業許可の譲渡譲受認可申請について、詳しくご説明いたします。
運送業許可の譲渡譲受とは何か、そのメリットやデメリット、申請許可が認められる場合やその要件について、一緒にみていきましょう。
運送業許可取得をお考えの方はぜひご覧ください。
運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)とはなにか?
運送業を始めるには「一般貨物自動車運送事業許可(一般的に言う運送業許可)」の取得が必要ですが、既に許可を持っている個人や法人から運送業の営業権、つまり運送業許可だけを譲り受けることができます。
運送業許可だけを譲り受ける場合は、譲り受ける側の運送業営業所を管轄する地方運輸支局へ「一般貨物自動車運送事業許可の譲渡譲受認可申請(一般的に営業権譲渡と言います)」を行います。
建設業許可や産業廃棄物収集運搬業許可と違い、許可を譲ったり譲り受けたりできるのが運送業許可の面白いところであり、奥が深いところでもあります。
(図1)
なお、運送業の営業所を複数持っている企業が、一部の既設営業所の営業権だけを他の個人や会社に譲渡することはできません。
営業権譲渡の場合は、事業者が有する「すべての営業権」の譲渡が必要です。
運送業許可(営業権)を譲渡譲受するメリットとデメリット
運送業許可を持っていない人がこれから運送業を始める場合、許可を既に持っている人から営業権を譲り受けた方が効率よく事業を始められるように思えるかもしれません。
しかし、実は審査は「運送業許可の譲渡譲受の場合でも、新規に許可を取得する場合と同じ要件が課される」という現実があります。※要件については後述します
譲受を希望される方の中には、「では、なぜ運送業許可の譲渡譲受という方法があるのだろう」と疑問に思う方もいるでしょう。
以下で、それらの疑問を含めて運送業許可の譲渡譲受のメリットとデメリットを解説します。
運送業許可の譲渡譲受のメリット
まずは運送業許可の譲渡譲受で発生するメリットです。
- 審査期間が新規申請よりも短い
- 登録免許税がかからない
- 譲渡会社から経営資源を譲ってもらえる可能性がある
審査期間が短い
譲渡譲受する場合の方が、新規で許可申請をする場合よりも、地方運輸局での審査期間が短くなります。
審査内容によっても異なりますが、審査機関の目安としては譲渡譲受で約3カ月、新規許可申請で約4カ月とされています。
登録免許税がかからない
新規で許可申請をする際には登録免許税の12万円が必要ですが、譲渡譲受の際は不要です。
譲渡会社から経営資源を譲ってもらえる可能性がある
交渉や状況次第では、譲渡側の企業から経営資源(人・場所・トラックなど)も含めて譲ってもらえる可能性があります。
人や場所、トラックなどの経営資源の調達には、時間も手間もかかります。
譲渡側から譲ってもらえる場合、その時間と手間、コストを大きく軽減できるため、事業開始をスムーズにできます。
運送業許可の譲渡譲受のデメリット
次に運送業許可の譲渡譲受の考えられる3つのデメリットについて解説します。
- 交渉が難航する恐れがある
- 行政処分も引き継ぐ
- 購入価格が高額になることもある
交渉が難航する恐れがある
譲渡譲受の際に交渉がスムーズにいくとは限りません。
お互いに自分に不利益にならないよう利益を追求するため、交渉がまとまらず決裂することも当然あります。
たとえば譲渡側が従業員全員を正規雇用するよう条件を付けてきた場合、譲受側は人材の必要がない、もしくは好ましくない従業員がいても雇用しなければならなくなります。
行政処分も引き継ぐ
もしも譲渡側の企業が行政処分を受けている場合には、譲受側はそれも一緒に引き継ぐことになります。
行政処分とは、簡単に言うと悪質な行為に対する注意や罰則のことで、国の行政機関からの「命令」です。
処分を無視して営業を続けるなどの場合には、内容によっては刑事罰などが問われることもあります。
譲渡側が行政処分を受けていないかどうか、よく確認しておきましょう。
購入価格が高額になることもある
譲渡会社によっては、運送業許可の買い取りを申し出るケースがあります。
運送業許可の売買は合法であり、譲渡側にとっては経済的合理性があります。ただし、その金額が高額になると、譲受側にとってはデメリットでしかありません。
買い取りを検討するかどうかは、条件の精査が必要です。たとえば譲渡側の優良顧客の引継ぎが可能な場合は、譲受側のメリットが大きくなる可能性もあるでしょう。
運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)が認められるケース
以下の場合は、要件を満たせば運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)が可能です。
- 個人事業で運送業許可を取得したのち、法人成りする場合
- 運送業許可を取得している運送事業者が他社に買収され、買いとった企業へ運送業許可を移行する場合(買収した企業が存続することが必要)
- 運送業許可を取得している会社が子会社などに運送業許可を譲る場合(親会社が存続することが必要)
- 譲渡側から譲受側へ譲渡物がある
※個人で運送業許可を取ったあとに法人成りする場合は、譲渡譲受認可申請が必要です。
合併・分割でも営業権を譲渡できるって本当?
譲渡譲受と同じく、他の会社から運送業許可を移行させる手段として「合併認可申請」と「分割認可申請」があります。
運送業許可を有する運送事業者を合併する場合は「合併収認可申請」を行い、分割する場合は「分割認可申請」を行います。
譲渡譲受の場合は、譲渡側の個人または企業が存続することが条件の一つです。
しかし、合併・分割の場合は、運送業許可を譲った側の企業が消滅しなくても、認可申請は可能となります。
合併・分割認可申請は譲渡譲受認可申請と要件、申請書類ともほぼ同じです。
会社の設立・解散、組織、運営などについての会社法では、合併・分割後に会社が消滅するケースと存続するケースがあります。しかし、運送業許可の申請に関しては「譲渡側の会社が存続すれば譲渡譲受認可申請」で、「譲渡側の会社が消滅すれば合併・分割認可申請」と区分されます。
補足|譲渡譲受と合併・分割認可申請のどちらが多いか
圧倒的に多いのは、譲渡譲受(営業権譲渡)認可申請です。
これは合併・吸収や分割・合併などの企業再編が、運送業界においてそれほど活発でないことが原因であると、弊社シフトアップは考えています。
譲渡譲受(営業所譲受)認可申請の要件
一般貨物自動車運送事業の譲渡譲受認可申請には、以下6つの要件をすべてクリアすることが必要です。
- 譲渡物の要件
- 資金の要件
- 人の要件
- 営業所の要件
- 駐車場の要件
- 車両の要件
以下で、それぞれについてざっくり解説します。
譲渡物の要件
運送業許可を譲り受ける側は、譲渡する側から必ず何かモノを買い取る(譲渡物と言います)必要があります。
買取るモノは基本的に何でもよく、トラックの他、プレハブやコンテナでも構いません。ただし、地域によっては譲渡物に条件があります。
中部地域や中国地域では、譲渡物はノートパソコン1台でも構いませんが、東北地域などではトラックの買取がないと譲渡譲受認可申請ができません。
自分の地域ではどうなっているのか知りたいという方は、弊社シフトアップまでお気軽にご相談ください。
また、デメリットのところで記載したように、譲渡側との交渉が発生する可能性が高いため、譲渡物の要件には特に注意が必要です。
シフトアップのお客様でも譲渡物の金額を決める交渉の折り合いが合わず、いつまでも申請ができない場合が多々あります。交渉は慎重に行うようにしてください。
資金の要件
譲渡譲受認可申請の場合も、新規に運送業許可を取る場合と同じく運送業を開始するために必要な資金の確保が必要です。
運送業開始に必要な資金には、主に下記のものが含まれます。
- 譲渡物を購入する費用
- 役員報酬の6か月分
- 従業員給与の6か月分
- 車両のリース・ローン月額の12か月分と頭金
- 自動車重量税・取得税などの1年分
- 自動車保険料の1年分などの費用
- 事務所・駐車場の賃料の6カ月分
上記の額を合算した額以上の自己資金を持っていれば、資金の要件を満たせています。
自己資金があるという証明は、銀行など金融機関の発行する「残高証明書」を運輸支局へ提出します。
人の要件
人の要件は欠格事由に該当しないこと、法令試験に合格すること、労働力が確保できていることの3つに分かれます。
以下で具体的に見ていきましょう。
欠格事由に該当しないこと
欠格事由は、譲渡譲受認可の申請者が申請できない事由に該当するか否かのことです。
具体的な事由としては、申請者(個人の場合は事業主、法人の場合は法人役員全員)が懲役刑の執行中であったり、刑の執行が終わってから2年を経過していないことなどがあります。
法令試験に合格すること
申請者は認可申請受付後に行われる法令試験に合格しなければなりません。
法令試験を受験できるのは、個人の場合は事業主本人、法人の場合は常勤の役員のうちの1人のみです。
※個人で運送業許可を取ったあとに法人成りする場合も、譲渡譲受認可申請が必要です。そのため、やはり法令試験の受験は必須となります。
労働力が確保できていること
労働力が確保できているか否かについては、以下を確認してみましょう。
- 事業に使用するトラックの台数に応じた運転者が確保できていること
- 運行管理者資格を持った者および運行管理補助者の要件を満たす者を確保できていること
- 整備管理者の要件を満たす者を確保できていること
詳しくは【最新版】運送業許可の譲渡譲受|人の要件を確認しようでも解説しているので、あわせてご覧ください。
営業所の要件とは?
都市計画法や建築基準法、農地法などの各種法令に抵触しない営業所・休憩室(必用な場合は睡眠施設)を確保する必要があります。
特に注意するのは都市計画法です。
建物の建築が抑制されている「市街化調整区域」と呼ばれる場所にある建物や、事務所を建てられない用途地域にある建物は、運送業の営業所として使えません。
補足|用途地域とは?
用途地域とは、都市計画法により定められた土地利用の用途を制限するための区域区分です。この区分は住居、商業、工業など13種類に分けられています。
駐車場の要件
事業に使用するトラックを容易に収容できる広さの駐車場が必要です。
なお、駐車場は広さだけでなく、都市計画法、建築基準法、農地法などの法令に抵触しない場所にあることも要件となります。
駐車場で特に注意するのは「農地法」です。
営業所と異なり、市街化調整区域と呼ばれる場所を駐車場とすることは可能です。
しかし、登記上の地目が「田」や「畑」の農地となっている場合は、農地転用許可の取得なしには駐車場として使用できません。
そのため、駐車場候補地が決まったら専門家に依頼してしっかり確認するようにしましょう。
補足|農地法とは?
農地法とは、農地などの取り扱いについて定められた法律です。
農地は売買や貸し借り、転用などが規制されているため、農地を農地以外の目的で使用する場合は「農地転用」という許可が必要になります。
車両の要件
事業に使用する事業用トラックは、最低5台の確保が必要です。
その際トラックの中には、軽自動車や2輪車は入れられませんので注意しましょう。
またトラクタを使う場合は、トラクタとトレーラー合わせて1台とカウントされることも憶えておいてください。
※譲渡譲受(営業権譲渡)の場合は、事業用トラックが5台未満でも良いという認識の方がたまにいらっしゃいますが、必ず最低でも5台は確保しないといけません。
譲渡譲受と新規許可のどちらを取れば良いの?
弊社シフトアップに譲渡譲受認可申請のご相談をされるお客様と話をしていると、最終的に新規許可申請を行う割合が90%に上ります。
理由は、新規許可申請を行った方が早期に運送業を開始できる場合が多いからです。
そう聞くと判断に迷うという方もいらっしゃるでしょう。そのため、何を判断基準にすれば良いのかについてご説明いたします。
重要な判断基準は相手との交渉の難易度
譲渡譲受認可申請においては、運送業許可を「譲渡する側との交渉がどれくらいの期間でまとまりそうか」が重要な判断材料の一つです。
前述したように、譲渡する側から譲り受けるモノが多額になったり、あるいは譲渡側の会社に対する思い入れが強かったりすると、思いのほか金額の交渉に難航します。
譲渡物の金額を決める場合、一般的には、そのモノの決算書上の帳簿価格や市場価格を参考にします。しかし、最終的には交渉によって決定するため、なかなか金額が決まらないケースがあります。
また、認可申請と関係のないところで交渉が難航する場合もあります。例えば、形の無いモノの売却金額です。
運送業の営業権を譲渡するときは、有形無形を問わず売却資産の対象になります。
今後見込まれる売上や得意先の数なども資産に含まれるため、なかなか金額が決まらないことが多いのです。
この部分に関しては、経営者の思い入れや、望みが大きく反映されるため、どこまで相手の交渉を飲むかがポイントになります。
交渉にかかる時間を考えると、新規で運送業許可を取得した方が期間的にも早いし、用意する自己資金も少なくて済むと予想される場合は、新規許可の取得をおすすめします。
新規許可は、譲渡物の要件を除いた他の要件はすべて譲渡譲受と同じです。申請から許可がおりるまでの期間が1カ月ほど違うだけですので、どちらで許可を手に入れるか熟考するようにしてください。
まとめ
運送業の譲渡譲受認可申請は、相手あっての許可取得です。ですから、いかにスムーズに交渉できるかがカギとなるといえるでしょう。
新規許可とどちらを選ぶかは、最終的にお客様の判断するところです。
しかし、どうすれば良いのか迷っているという方は、運送業許可の専門事務所「行政書士法人シフトアップ」へお気軽にご相談ください。
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