運送業を始める手段として、運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)というものが存在します。聞いたことがあるという方も多いでしょうが、、ネット上や周りの運送事業者様から仕入れる情報だけでは理解しがたいことと思います。
そこで、専門家が詳しくご説明いたしますので、運送業許可取得をお考えの方は是非ご覧ください。
運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)とはなにか?
運送業許可を持っていない個人や会社が、他の個人や企業から運送業許可を譲り受けることを運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)と言います。
正確には「一般貨物自動車運送事業許可の譲渡譲受」と言い、運送業を行う営業所を管轄する地方運輸支局に対して行う認可申請となります。
建設業許可や産業廃棄物収集運搬業許可と違い、営業権を譲り受けることが出来るのが運送業許可の面白いところであり、奥が深いところでもあります。
以下でどのような場合に運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)が認められるのか見ていきましょう。
運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)が認められるケース
以下の場合は、要件を満たせば運送業許可の譲渡譲受(営業権譲渡)が可能です。
- 個人事業で運送業許可を取得したのち、法人成りする場合
- 運送業許可を取得している運送事業者が他社に買収され、買いとった企業へ運送業許可を移行する場合(買収した企業が存続することが必用)
- 運送業許可を取得している会社が子会社などに運送業許可を譲る場合(親会社が存続することが必用)
- 譲渡側から譲受側へ譲渡物がある
※個人で運送業許可を取ったあとに、法人成りする場合は譲渡譲受認可申請が必用となります。
合併・分割でも営業権を譲渡できるって本当?
譲渡譲受と同じく、他の会社から運送業許可を移行させる手段として「合併認可申請」と「分割認可申請」があります。
運送業許可を有する運送事業者を合併する場合は「合併収認可申請」を行い、分割する場合は「分割認可申請」を行います。
譲渡譲受の場合は、譲渡側の個人または企業が存続することが条件の一つですが、合併・分割の場合は運送業許可を譲った側の企業が消滅しなくても認可申請は可能となります。合併・分割認可申請は譲渡譲受認可申請と要件、申請書類ともほぼ同じです。
会社の設立・解散、組織、運営などについての会社法では、合併・分割後に会社が消滅するケースと存続するケースがあります。しかし、運送業許可の申請に関しては、譲渡側の会社が存続すれば譲渡譲受認可申請、消滅すれば合併・分割認可申請と区分されます。
補足|譲渡譲受と合併・分割認可申請のどちらが多いか
圧倒的に譲渡譲受(営業権譲渡)認可申請が多いです。これは合併・吸収や分割・合併などの企業再編が運送業界においてはそれほど活発でないことが原因だと弊社シフトアップは考えています。
譲渡譲受(営業所譲受)認可申請の要件
一般貨物自動車運送事業の譲渡譲受認可申請は、
- 譲渡物の要件
- 資金の要件
- 人の要件
- 営業所の要件
- 駐車場の要件
- 車両の要件
の6つの要件すべてをクリアしなければいけません。以下でそれぞれについてざっくり解説します。
譲渡物の要件
運送業許可を譲り受ける側は、譲渡する側から必ず買い取るモノ(譲渡物と言います。)がなければ要件をクリアできません。買取るモノは、基本的にトラックでなければならないという決まりはなく、プレハブやコンテナでも構いません。
中部地域や中国地域では、譲渡物はノートパソコン1台でも構いませんが、東北地域などではトラックの買取がないと譲渡譲受認可申請を行うことができないので注意しましょう。
自分の地域ではどうなっているのか知りたいという方は、弊社シフトアップまでお気軽のご相談ください。
資金の要件
運送業を開始するために必要な資金を確保していないと要件を栗できません。運送業開始に必用な資金には主に下記のものが含まれます。
- 譲渡物を購入する費用
- 役員報酬の6ヶ月分
- 従業員給与の6ヶ月分
- 車両のリース・ローン月額の12ヶ月分と頭金
- 自動車重量税・取得税などの1年分
- 自動車保険料の1年分などの費用
上記の額を合算した額以上の自己資金を有していれば資金の要件を満たしていることになります。自己資金を有していることは、銀行など金融機関の発行する残高証明書で証明します。
人の要件
人の要件は欠格事由に該当しないこと、法令試験に合格すること、労働力が確保できていることの3つに分かれます。以下で具体的に見ていきましょう。
欠格事由に該当しないこと
欠格事由は、譲渡譲受認可の申請者が申請できない事由に該当するか否かのことで、具体的には、申請者(法人の場合は法人役員全員)が、懲役刑の執行中や執行が終わってから2年を経過していないことなどが要件となります。
法令試験に合格すること
認可申請受付後に行われる法令試験に申請者が合格することも要件になります。法令試験を受験できるのは、個人の場合は事業主本人、法人の場合は常勤の役員のうちの1人のみです。
※個人で運送業許可を取ったあとに、法人成りする場合も譲渡譲受認可申請が必用となるため法令試験を受験しないといけません。
労働力が確保できていること
労働力が確保できていることとは以下のことを言います。
- 事業に使用するトラックの台数に応じた運転者が確保できていること
- 運行管理者資格を持った者および運行管理補助者の要件を満たす者を確保できていること
- 整備管理者の要件を満たす者を確保できていること
【詳しくはこちら】【2019年更新】運送業許可の譲渡譲受|人の要件を確認しよう
営業所の要件とは?
都市計画法や建築基準法、農地法などの各種法令に抵触しない営業所・休憩室(必用な場合は睡眠施設)を確保していないと要件をクリアできません。
特に注意するのは都市計画法で、建物を建築することが抑制されている「市街化調整区域」と呼ばれる場所にある建物や、事務所を建てることが出来ない用途地域にある建物を運送業に使用する営業所として使用することはできません。
補足|用途地域とは?
用途地域とは都市計画法により定められた土地利用の用途を制限するための区域区分です。この区分は住居、商業、工業など13種類に分けられています。
駐車場の要件
事業に使用するトラックを容易に収容できる広さの駐車場を確保していなければ要件をクリアできません。駐車場は広さだけでなく、都市計画法、建築基準法、農地法などの法令に抵触しない場所にあることも要件となります。。
駐車場で特に注意するのは「農地法」です。営業所と違い、市街化調整区域と呼ばれる場所を駐車場とすることは可能です、しかし、登記上の地目が「田」や「畑」の農地となっている場合は、農地転用許可を取得しないと駐車場として使用することができなません。
ですから、駐車場候補地が決まったら専門家に依頼してしっかり確認するようにしましょう。
補足|農地法とは?
農地法とは、農地などの取り扱いについて定められた法律です。農地は売買や貸し借り、転用などが規制されているため、農地を農地以外の目的で使用する場合は「農地転用」という許可が必要になります。
車両の要件
事業に使用する事業用トラックを最低5台確保しないと要件をクリアできません。トラックの中には、軽自動車や2輪車を入れ出ることはできないので注意しましょう。
またトラクタを使う場合は、トラクタとトレーラーを併せて1台とカウントされることも憶えておいてください。
※譲渡譲受(営業権譲渡)の場合は、事業用トラックが5台未満でも良いという認識の方がためにいらっしゃいますが、必ず最低でも5台は確保しないといけません。
特に注意するのは譲渡物の要件
上記要件の中で特に注意が必要なのは1の譲渡物の要件です。なぜなら、運送業許可の譲渡側との交渉が必用になる可能性が高いからです。
譲渡譲受認可申請を行うには、必ず譲渡側から譲受側への譲渡物が必用となります。譲渡物の金額を決める交渉の折り合いが合わずに申請ができない場合が多いので慎重に行うようにしてください。
結局、譲渡譲受と新規許可のどちらを取れば良いの?
弊社シフトアップに譲渡譲受認可申請のご相談を頂くお客様と話をしていると、最終的に新規許可申請を行う割合が90%に上ります。理由は、新規許可申請を行った方が、期間的に早く運送業が開始できる場合が多いからです。
そう聞くと、判断に迷うという方のために何を判断基準にすれば良いのかご説明いたします。
重要な判断基準は相手との交渉の難易度
譲渡譲受認可申請においては、運送業許可を「譲渡する側との交渉がどれくらいの期間でまとまりそうか」が重要な判断材料の一つとなります。
譲渡する側から譲り受けるモノが多額になったり、あるいは譲渡側の会社に対する思い入れいが強いと、思いのほか金額の交渉に難航します。
譲渡物の金額を決める場合、一般的には、そのモノの決算書上の帳簿価格や市場価格を参考にします。しかし、最終的には交渉によって決定するためなかなか金額が「決まらないというケースがあります。
また、認可申請と関係のないところで交渉が難航する場合もあります。例えば、形の無いモノの売却金額です。
運送業の営業権を譲渡するときは、有形無形を問わず売却資産の対象になります。今後見込まれる売上や得意先の数なども資産に含まれるため、なかなか金額が決まらないことが多いです。この部分に関しては、経営者の思い入れや、望みが大きく反映されるため、どこまで相手の交渉を飲むかがポイントになります。
交渉にかかる時間を考えると、新規で運送業許可を取得した方が期間的にも早いし、用意する自己資金も少なくて済むと予想される場合は新規許可を取得することをおすすめします。
新規許可は譲渡物の要件を除いた他の要件はすべて譲渡譲受と同じです。わずかに申請から許可がおりるまでの期間が1カ月ほど違うだけですので、どちらで許可を手に入れるか熟考するようにしてください。
おまけ|既設営業所の営業権だけを譲渡することはできるか?
運送業の営業所を複数持っている企業が、一部の既設営業所の営業権だけを他の個人や会社に譲渡することはできません。グループ企業間でこのようなやり取りをしたいというご相談を受けることがあります。
本拠となる営業所の運送業営業権を残したまま、従たる営業所の営業権を譲渡をすることはできず、事業者が有する営業権すべてを譲渡する必用があります。
まとめ
運送業の譲渡譲受認可申請は、相手あっての許可取得です。ですから、いかにスムーズに交渉できるかがカギとなるといえるでしょう。
ご不明な点はございませんか?
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